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[#124] 何とも言えない 『僕はLEGOBIGMORLのライブを客席から見たことがある』
『僕はLEGOBIGMORLのライブを客席から見たことがある』
乾杯!!
千日前の王将で打ち上げが行われた。
打ち上げ嫌いだった僕らも仲の良いバンドが揃う打ち上げは好きだった。
酒もそんなに好きじゃないのに均等に取られる会費が嫌いだった。
王将のロゴがプリントされたでかいジョッキには生ビール。
一応僕もそれを握りしめ乾杯と同時にジョッキを高く掲げた。
その瞬間、背中に激痛が走った。
「即入院です」
「いやいやライブも決まってますし、そりゃ無理です」
「いやいやこのままやと息できなくなるで?」
「それはダメですね」
てな会話がありながらも気付けば景色のいい部屋に車椅子で運ばれていた。
すぐに先生がやってきて言った。
「はーい、手術しちゃいますねー」
肺気胸という病気は背の高い痩せ型の人になりやすいらしい。
余談だが、僕が入院したその病院は一週間前まで尼川元気が入院していた。
しかも肺気胸で。
謎の親友ならではのシンクロ率を発揮している場合ではないが実際そんな入れ違いがあった。
打ち上げ会場の王将から車まで腰を直角に曲げないと歩けないほど痛く、遠くから見ると腰の曲がりまくったお爺さんに見えたことだろう。
次の日の昼には脇腹にメスを入れるなんて夢にも思わず御堂筋を腰を曲げながら歩いた深夜。
手術室とかに行くもんだと思っていた。
六人部屋のベッドで横になり薄い黄色のカーテンだけを眺めていた。
メスや注射を直視したくなかったためだ。
嫌な痛みと共に体に何か入れられたことはわかる。
肺から漏れた空気を外に逃すためのチューブでこれを一週間つけなければいけない。
手術は一瞬で終わり、僕の左脇腹からはチューブが出たまま。
何か質問はあるかと聞かれたので「どうやって寝返りをすればいいですか?」とだけ聞いたが答えは覚えていない。
肺気胸、交通事故。
これまで僕はLEGOBIGMORLに迷惑をかけまくっている。
その度に三人でライブをしてくれた。
逆に言うと、僕がいなくてもライブができるのだ。
謙遜でもなくボーカル、ベース、ドラムがいないとライブはできないがリードギターは極論いなくても成立はするのだ。
その事実にまた何だかヘコむ。
「激しい運動はまだダメです」
「ライブは激しい運動になりますかね?」
「田中さんの演奏は激しいですか?」
「はい、飛んだり跳ねたり激しいです」
「じゃあダメですね」
なんで馬鹿正直に答えてしまったのか未だに謎だが、退院後のスケジュール的にこのライブには間に合うかもしれないと淡い期待を抱いていたライブにも出れないことがわかった。
でもライブに顔だけは出せそうだ。
そのことをメンバーに伝えるとチケット買ってこいと冗談で言われたが、今考えると迷惑料として冗談じゃなかったのかもしれない。
今でも僕の脇腹には傷が残っている。
それはずっと僕の体の一部として死ぬまで残る。
風呂に入る度にその傷を見ると僕は人生で恐らく最初で最後だったであろうLEGOBIGMORLのライブを客席から見たあの景色を思い出すのだ。
こんな機会はない。
なので僕は最前列に立った。
ど真ん中は流石に気が引けたのでシンタロー側に立った。
お客さんが僕を見て笑っている。
ライブが始まってもステージを見たり僕を見たりで忙しそうだった。
僕は実はそんなことはあまり気にならず、LEGOBIGMORLのライブに見入っていた。
あぁかっこいいバンドだなと心から思った。
そしてメンバーの背が高すぎて見上げる首が辛いなということも思った。
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