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[#121] 何とも言えない 『世界であんたはいちばん綺麗だ』
『世界であんたはいちばん綺麗だ』
忘れらんねえよというバンドのサポートギターを数年やらせてもらっていたことは前にもコラムで書いたことがあるかと思う。
自分のバンド以外でギターを弾くことの新鮮さ、自分のバンド以外のグルーヴの違い、ライブで重視する点。
音楽以外のことで言うと休憩時間の過ごし方、移動車の中での会話、打ち上げの仕方、などなど。
本当に同じロックバンドなのにこんなにも違うのかと驚きながらも楽しんだ。
ギターとして求められているものも違うので出す音も、使う弦も違う。
その中でも自分のバンドでの仕事と、忘らんねえよでの仕事で決定的に違うところがある。
作詞をしているか、していないかだ。
ギターのフレーズを覚えることに必死だ。
曲名を言われても、曲とタイトルがまだ一致していない。
僕のために同じ曲を何回も一緒に練習してくれる。
彼らにとってはもう飽きてしまうほど演ったであろう曲だから申し訳なくなる。
メモを見ても自分の字が汚すぎて自分でも読めない。
作詞家ということは忘れて、ギタリストとして呼ばれているため彼らの歌詞をきちんと理解するのはもう少し後のことになる。
「外野なんか空気でしかないだろ」
「周りのやつとかどうでも良いだろ」
「ねえあんたを馬鹿にしたクソ野郎は俺が後でぶっ飛ばしとくよ」
こう始まるこの歌は忘らんねえよというバンドの中でも特に好きな曲の一つだ。
こんな歌詞は書けない。
というか思いつきもしない。
僕はもっと斜に構えた歌詞を書いてしまう。
彼らの歌詞はこういう世界観が特徴ではあるものの、それを飾らない真っ直ぐなメッセージ性のある歌詞と表すのは乱暴すぎる気がする。
もちろんそんな表現が間違っているとは思わないのだが、それでは足りないのだ。
彼らには品も足りていないが。
「タイヤなんか空気でしかないだろ」
やっと歌詞を感じながらギターを弾くことができるくらいにはギターフレーズが体に入ってきた時。
僕はこの歌詞に衝撃を受けた。
確かにタイヤというのはゴムの部分を指すのかもしれないが、中に入っているのはただの空気。
昔何かで読んだ「ドリルが欲しい者はドリルが欲しいのではなく、穴が欲しいのだ」という言葉に似ている気がした。
凄い冒頭だ。
大事なものの本質を見失うなという意味なのだろう。
そんなことを思ってギターをミスりそうになった。
渋谷の道玄坂。
休憩の時にコーヒーを買いに行こうと外に出ると、もう夜のイケナイ顔した渋谷に様変わりしていた。
ずっとずっとずっと。
「外野なんか空気でしかないだろ」と始まるこの曲の歌詞を「タイヤなんか空気でしかないだろ」だと間違えて覚えていた。
ボーカルの柴田氏の滑舌はお世辞にも良いとは言えないことを言い訳にはできない。
その間違いに気づいた時は本当にびっくりした。
なんたってある日のライブ中に気づいたのだから。
「今外野って言うた?」
そんな想いを抱きながら演奏した。
そしてライブ後すぐに歌詞をググった。
流石に本人には聞けなかったからだ。
「外野なんか空気でしかないだろ」と歌詞にあった。
うん、やっぱ忘れらんねえよはこのくらい真っ直ぐじゃないとな!
僕は気持ちよく納得し、「タイヤなんか空気でしかないだろ」という歌詞を良いと思ってしまった斜に構えた自分を恥じた。
でもどこかでじゃあ「タイヤなんか空気でしかないだろ」の方の歌詞はLEGOで使えるかな?と思ってしまう僕は病気なのかもしれない。
ずっと言葉を探している。
このコラムを書きながらも。
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