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    [#120] 何とも言えない 『日本人形』

    KITSU

    2023/04/17 19:00

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    『日本人形』

     

    自分の部屋というものをもらい自由を手に入れた気持ちになる。

    そこで隠れてタバコを吸ったりすることになるのだが、それよりも少し前の話。

    なぜかタンスの上に日本人形が飾られていた。

    きちんとガラスの箱に入れられた人形。

    僕はとにかくそれが怖かった。

    恐らく中学生になっても怖かった記憶がある。

     

    朝と夜では表情が違う気がする。

    太陽の光の入り方で影の形は変わり、時間と共に様子を変える。

    どこに居ても目が合っている気がする。

    そのせいで寝る時以外はリビングに居た。

    テレビを見たり、宿題をしたり。

    じゃあその人形をどこかにやればいいじゃないか。

    そう思うだろう。

    しかしできなかった。

    その人形を違う場所へ移動させるということは恐れているという事実を認めてしまうことになる。

    そしてそのことで人形自身の怒り買ってしまうんじゃないか。

    本気でそう思っていた。

     

    友達がよく集まる家ではあった。

    我が家にはテレビゲームがなかった。

    買えないほど貧乏だったわけではないはずだが、なかった。

    何より僕自身が興味がなかった。

    外で走り回っている方が好きでテレビゲームに熱中した記憶がない。

     

    夕方。

    僕の家の前で友達とサッカーか何かをしていた。

    日によってはサッカーがかくれんぼやキャッチボールになる。

    近所の家の壁や車にガンガンボールを当てた記憶があるが今考えると信じられない。

    ブチギレられてもおかしくない。

     

    西日が僕らの影を伸ばす頃。

    部屋に用事があった。

    何の用事だったかは忘れた。

    部屋に入ると日本人形。

    見ないようにすればするほど目に入る。

    すると、いつもとは違う顔をしている。

    何たって夕方はいつも外で遊んでいるから西日に照らされたその表情を見るのが初めてだったのだ。

    それはそれは綺麗で神秘的で、だからこそ一層怖かった。

    美しさとは少しの恐怖を孕んでいるのかと幼心に思ったが、言語化できてはいなかった。

    だからとにかく「怖い」としか言えない。

    意を決して外にいる友達を呼んだ。

    「ちょっと自分の部屋入るの怖いから誰か来てくれへん?」

     

    自分の部屋に入るのが怖いという奇妙な僕を見る友達。

    友達全員が「何を言うてるんやこいつは」という顔をしていた。

    その顔は忘れられない。

    「自分の部屋に入るのが怖いってどういう意味?」

    友達の一人が違和感をきちんと言語化してくれた。

    僕は事情を全て話した。

    すると僕を馬鹿にしながらも面白がって一人でいいのに全員が部屋について来てくれた。

    全員で狭い僕の部屋に入り日本人形の顔を見ると何だか優しい顔に見える。

    「友達たくさん連れて来たんやなぁ、ゆっくりしていき」と言っているよう。

    と思い出しながらコラムを書いているとまた少し怖くなってきた。

    そしてこんなことを曝け出していることに恥ずかしくなってきた。

     

     

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