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[#116] 何とも言えない 『あいつは回転してる寿司を食わない』
『あいつは回転してる寿司を食わない』
すぐに注文のタッチパネルを触るんじゃない。
まず回っている寿司を見ろ。
僕らは回転寿司に来ているのだから。
「回っているのは時間が経っているからネタが乾燥している」
そんなことはわかっている。
「食べたいネタが回ってこない」
そんなこともある。
回転寿司店は席に着いた瞬間にものが食べられるという意味では飲食店の中で最速じゃなかろうか。
その偶発的な出会いをまずは楽しめ。
タッチパネルを触るのはそれからでも遅くはないのだ。
まずは回っている寿司を見て、食え。
わざわざツアーで出向いた県で回転寿司を食べるくらいうちのバンドは回転寿司が好きなのだが、彼らもすぐにタッチパネルを触る。
まだ僕が粉末のお茶をコップに入れ、お湯は注がれていないタイミングだ。
でも悔しいが彼らの注文に僕が乗っかることもある。
僕らのテーブルは若草色だ。
意地でも若草色のカップに乗り流れてくる寿司よりも先に回っている寿司を適当に取り口に運んだ。
最近回転寿司の嫌なニュースが話題になった。
ここでは詳細すらも書きたくないが、簡単に言うとアホがアホなことしただけのこと。
それでなぜスシローの株価が下がるのかだけが理解できなかった。
逆だろう。
あんなアホのせいで回転寿司のイメージがダウンしているなら、今こそ今までの恩返しをすべきではないか。
あいつは何をするにも合理的な男だ。
仕事の上ではそれにかなり助けられている。
せっかちなくせに無意識に遠回りをする僕にはそのきめ細やかさはない。
あいつとはうちのバンドのベースでリーダーのシンタロウだ。
彼が回転寿司で回っている寿司の皿を取っているのを見たことがない。
僕はこう言ったことがある。
「回っている寿司も楽しめ」と。
何を言っているんだこいつは!という顔で僕を見ていたが、すぐに視線はタッチパネルに戻った。
「回っている寿司の風情を楽しめ」
もう一度言い方を変えて伝えてみたが、とうとう視線すらもくれないでいた。
そこに風情があるかなんてわからないがそんな言葉しか思いつかない僕は作詞家失格なのだろう。
山盛りに入れたお茶の粉末が溶けきれずに湯呑みの底で固まっている。
おやつを何円分でも買っていいと言われるより、おやつは五百円までと言われた方がワクワクする。
普通は買いたいだけ買えた方が嬉しいはずなのに僕はその不自由の中の自由を楽しむ(楽しめる)人なんだと思う。
逆に制限がないと困ってしまう。
小説なんて書ける気がしないが、歌詞は書けるのはそれに近いものがあると思う。
メロディーという制限があった方が燃える。
先ほど述べた風情というものをどう伝えようかと考えたらこの話を思いついた。
絶対他にもっといい例え話があるのだとは思うが、作詞家失格の僕にはこれが限界だ。
でもここに書いているということはその例え話が不本意なわけではない。
何なら本当は気に入っている。
こんなめんどくさい僕にいつも付き合ってくれるあなたにもメンバーにも感謝している。
シンタロウはなんだかんだタッチパネルで僕が好きそうな寿司も頼んでくれている。
一緒に回転寿司に行こうと今でも思えるメンバーって良い感じなんだと思う。
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