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[#115] 何とも言えない 『サッカーと音楽』
『サッカーと音楽』
ワールドカップが終わった。
元サッカー少年だった僕としてはまた四年後かという寂しさがある。
でも世の中の人が全員サッカーに興味があるわけではないこともわかっている。
日本代表のために朝の四時からサッカーを見た人の方が少ないのかもしれない。
僕は死ぬまでにあと何回ワールドカップを観られるのだろう。
僕が死ぬまでに日本は優勝できるだろうか。
初めて先輩後輩という縦社会を学んだ。
僕の中学のサッカー部は別に強豪でもないが上下関係はそれなりに厳しかった。
でも厳しいとは言え怖いわけではなく人間として見てくれていた。
毎日練習終わりには先輩の足をマッサージ。
優しい先輩に当たれば逆に後輩の僕の足もマッサージしてくれることもあった。
たまにフラッと現れる先輩が居た。
若林さんだ。
彼は普段はとても優しいが、いわゆる不良というやつだ。
金髪で、タバコを吸い、シンナーも吸っている。
誰よりも足が速く公式試合しか来ない。
でも来たらスタメンに名を連ねる。
監督も彼の足の速さには一目置いている。
しかし金髪のままでは試合に出られないため黒彩スプレーを頭にかけられる。
若林さんが汗をかいていくほどに、その黒彩スプレーは流れ落ちていき、顔にかかり、後半には黒人選手のように顔が黒くなる。
突然ブラジルからの留学生が現れたかと思う。
その様子に後輩の僕らは絶対に笑ってはいけない。
若林さんに殺されるからだ。
絶対に笑ってはいけない。
常々思うことがある。
プロ野球やJリーグには毎試合何万人というお客さんが入る。
野球なんて週に何回も試合しているのにだ。
ずっと同じ場所で試合しているのにだ。
では日本のドームクラスのミュージシャンが年間通して週に何回もライブをやり、毎回野球やサッカーのように観客が入るのだろうか。
状況なども違うため一概には言えないのはわかっているが、そんなことを考えるとスポーツの尊さや儚さには敵わないなと思う。
筋書きのないドラマとはよく言ったものだ。
ドイツ戦が始まる。
友人のイガラシが家に来て飲みながら一緒に観戦した。
いつも大人しい彼はサッカーには饒舌だが、僕のようにわかりやすいリアクションをするわけではない。
でもドイツ戦終了間際に浅野選手が逆転のゴラッソを決めた瞬間テレビの前で僕らは抱き合い感情を爆発させた。
やはりスポーツの感動には敵わないのか。
悔しくもありながら、ドイツ戦の勝利を喜んだ。
あれに匹敵する感動を提供できているのか。
あれに勝る感動を提供できているのか。
音楽にしかできない、バンドにしかできない感動もあるはずだとあれからずっと考えている。
比べるものではない。
でも比べてしまう。
日本中に感動を与えられるようなバンドじゃないが僕とイガラシのように感動で抱き合ってしまうような。
地元の怖い先輩の若林さんの耳に入るような。
そんなバンドになりたい。
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