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[#108] 何とも言えない 『イガラシの衣装』
『イガラシの衣装』
Thanks Givingという対バンイベントは僕らにとって大切なイベント。
ただの対バンではない。
十周年の時はback numberとunison square gardenを招いた。
じゃあ十五周年の時は誰だと言うと、ヒトリエとthe telephonesだ。
Thanks Givingにお招きするバンドには思い入れしかない。
去年の今頃だろうか。
物静かだと思われがちだが、テーマによっては饒舌になる。
よく人を見ていて、よく考えてから話す。
そんな彼はヒトリエというバンドのベーシスト。
ベースマガジンの表紙も飾る彼と僕は何故か特に仲良くなった。
彼は僕の家によく来てくれて一緒に飲むのだが、彼の服は基本的に常に真っ黒。
我が家の猫の毛が彼の高そうな黒い服に付きまくるので申し訳なくなる。
猫の毛を全く気にせず我が家で過ごす彼を愛おしくも思う。
その洋服はモードで、シックで、上品。
僕が好きな古着や何とも言えない色の服などは着ているのを見たことがない。
真っ黒。
そしてゆったり目のサイズ感。
たまにスキニー。
考えてのことかはわからないが、彼も常に自分を表現している。
毎回ライブの衣装は自分で選ぶ。
小難しく言うと、そこからもうライブな気がして手が抜けない。
ライブとは文字通り命、生き様。
纏う服もその人を表す。
サイズ感や色味などをライブによって選ぶ。
セットリストによっても変わる。
ヒトリエとのライブが迫る中僕はクローゼットの奥へ進む。
その日のライブで着たい服があった。
もうこれを着ようと決めていた。
久しく着ていないスキニーとラッドミュージシャンのオーバーサイズの薄いニットだ。
どこにしまったかな?と奥の衣装ラックにどちらも入っており、やはり猫の毛が付いていた。
わかっている人はわかっているが説明しておくと。
我々LEGOBIGMORLとヒトリエ、それぞれのバンドの事務所の社長は同じ人。
事務所名こそ違うが親戚のような関係なのだ。
それもあってそれぞれの状況を軽く理解していることもある。
大阪でのThanks Givingの対バン。
普段なら大阪の実家に泊まるためホテルは取らないLEGOもこの日ばかりは宿を押さえた。
社長が同じなのだから予約するホテルももちろん二バンド同じホテル。
本来なら打ち上げなどして飲みに行きたいところだがコロナのこともあり、ライブ後は寂しい。
最近履いてなかったスキニーのボタンがきちんと締まったことに少し安堵しつつ、その上からオーバーサイズのニットを羽織る。
今回なぜこの衣装にしたかと言うとイガラシを意識してのことだ。
僕が持っている服の中で彼が着ていそうな服を選んだ。
彼との対バンで彼をオマージュしてみた。
でもそれは誰かに話すでもないただの自己満足。
そんな裏テーマみたいなものを自分の中で大切にしたい。
そのおかげもあってかライブは気持ちが入ったものになった。
あれから一ヶ月後、社長が笑いながら僕に言った。
「ヒトリエと次のツアーの衣装どうする?って話してたらイガラシがThanks Givingでヒロキが着ていた服みたいな衣装を要求してたよ」
思わず笑ってしまった。
「いや、僕あの衣装イガラシを意識してイガラシが着てそうな服をわざと着てたんですけど!」
初めてあの日の衣装の意味を人に話した。
これには社長も笑っていた。
そしてそんなことを言ったイガラシも可愛い。
何だかことわざにあるような。
何だか昔話であるような。
何だか落語であるような。
そんな話だな。
ミイラ取りがミイラになる。
これともまた違う気がするし。
いやはや何とも言えない。
もうすぐfive new oldとのThanks Givingが始まる。
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