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[#106] 何とも言えない 『雪合戦と咀嚼』
『雪合戦と咀嚼』
今頃僕は、僕らは札幌でのWarpツアーのファイナルを終えていることだろう。
過去を振り返るからこそ、未来をきちんと見据えることができる。
LEGOは今年も前に進む。
奇を衒いがちな僕だが、真摯に良い音楽と良いライブをしていく。
それでしかお客さんからの信頼は得られない。
北海道が初日だった。
四バンドともほぼ初対面で、よそよそしいを絵に描いたような楽屋。
列伝ツアーが始まる。
十年以上前にもなる。
数字にすると恐ろしい。
雪の降る札幌。
テレフォンズというバンドのキーボードの人の様子がおかしいこと以外は何も知らずにライブに臨んだ。
札幌に吉田さんを初めて連れていくことになるWarpツアー。
つまり大ちゃんが脱退してから北海道に行っていないことになる。(記憶違いだったらすみません)
コロナも重なりタイミングを逃し続けていたことが道民には申し訳なさをメンバー全員が持っている。
札幌といえば大ちゃんがまだ居た頃に北海道での打ち上げ後、道端で急にメンバーで雪合戦が始まった動画が僕のスマホに残っている。
なぜかたまに観てしまう。
オチが僕が滑って転んで全員から雪を浴びせられて終わるという動画なのだが。
酔っていたせいか何せ皆んなが楽しそうだ。
無邪気に雪を投げて満面の笑顔の大ちゃんの顔が大ちゃんの娘にそっくりすぎるのがツボで、その動画を見る僕も笑ってしまう。
美味しいご飯や綺麗な景色もたくさん写真としてアルバムにあるが、その動画だけはたまに観てしまう。
列伝ツアーは毎ライブ打ち上げがあるわけではない。
計三回だった。
札幌と大阪と、ファイナル東京。
大阪と東京は昨日のように思い出す壮絶な打ち上げだった。
大阪では頭からタバスコをかけられ、東京では暴れ回ったLEGOのスタッフがリキッドの階段から転げ落ち肋骨を折った。
しかし札幌はまだよそよそしさがある打ち上げでしっぽり行われた。
座敷の宴会場でどこに座るのかも試されているようで、結局メンバーで固まって座ってしまうLEGOは社交性なんてどこかに捨ててきたみたいだった。
打ち上げはラムしゃぶと蟹。
かなり豪華だった記憶がある。
それら全て食べ飲み放題。
恐らくLEGOの全員がその時初めてラムを食べた。
あれは美味い。
Warpツアーは過去の曲を演奏するツアー。
でも過去を懐かしむだけで終わりたくないので年末に未来を示す新曲「bubble」をリリースした。
この辺のストーリーなども自分達で描いて活動をするのは楽しい。
昔は何も考えずにやりたいツアーをして出したい曲を出していた。
それも悪くないが、活動を重ねると人生設計のように生き様としてストーリーを描くのも楽しい。
冒頭にも言ったが、そういうことにもお客さんからの信頼というものを得られるヒントがある気がする。
さすがによそよそしさも薄れてきた宴会場。
自然と楽器のパートごとに鍋を囲んでいた。
食べ放題の蟹の殻が山盛りになっている。
外は極寒。
札幌の宴会場で僕を含めた多数は半袖になっていた。
それだけ盛り上がったのだろう。
偉い人の締めの挨拶があり各自ホテルへ。
宴会場を出て靴を履く場所ではもう吐く息は白い。
そうだ僕らは北海道に居たのだと思い出す。
僕らのホテルはmudy on the昨晩というバンドと同じで雪道を共に歩く。
その道中ピッピという名のギターの彼の口がモグモグと動いていたのでガムでも噛んでいるのかと思っていた。
でも何かおかしい。
吐く息の白さでよく見えていなかったが明らかに咀嚼している。
彼は何かを咀嚼して飲み込んで、また何かを咀嚼している。
「何食べてんの?」
そう聞いた僕に彼は言った。
「え?蟹っす。食べますか?」
彼はそう言ってポケットから蟹の足を僕の口元に差し出した。
まるでカロリーメイトを頬張るように颯爽と頬張りながら雪道を歩く。
よく見ると彼のポケットはパンパンだ。
この中身全て直で蟹が入っているというのか。
蟹の足の先がズボンのポケットから少し出ている。
「いや蟹いらんで」
気の利いたツッコミもできずに普通に返事をした自分が関西人として恥ずかしい。
周りにいた者は皆爆笑している。
食べ放題の蟹をポケットにパンパンにテイクアウトしていたのだ。
そこにラム肉も入っているかどうかは確認できずにいた。
今頃僕は、僕らは札幌でのWarpツアーのファイナルを終えていることだろう。
過去を振り返るからこそ、未来をきちんと見据えることができる。
LEGOは今年も前に進む。
札幌の夜はあの頃からも前に進む。
ポケットに蟹を入れたピッピも、雪合戦をした大ちゃんも今は会うことはあまりない。
思い出を背負い込んで、未来に胸を踊らせ生きていく。
生きていくしかない。
誰もが。
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