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[#102] 何とも言えない 『猫~えるしっているか、チャオチュールは万能ではない~』
『猫~えるしっているか、チャオチュールは万能ではない~』
犬派だった。
猫も嫌いではなかったが、何を考えているかわからないという理由から少しばかりの恐怖を抱いていた。
今思うと猫が何を考えているかはわかる時もあるし、犬も何を考えているかわからない時もある。
ましてや人間だって何を考えているかわからない。
その「わからない」という現象にいちいち怯えていたらキリがないのだ。
この世の誰よりも自分は偉いと思っているに違いない行動、表情。
一晩中鳴いていたそれこそ”借りてきた猫”の頃が懐かしくなるくらい今では太々しい態度である。
少し前にその動物の写真を見れば感情がわかるという人と飲むことがあった。
占いとも少し違う。
スピリチュアル的なものだろうか。
嫌われたらどうしようとか、前の家に帰りたいと思われてたら可哀想だな。
なんて心配しながら恐る恐る携帯にある、なるべく可愛く写っている写真を探した。
その人にうちの猫の写真を見せると急に爆笑した。
「彼は悲しいとか寂しいとか全く思ってなくて、俺はこの世に生まれ落ちたぞー!!!自由だー!!!って叫んでるよ」
うちの子そんなこと思ってるんですか。。。
心配して損をしたし、顔から火が出るほど恥ずかしい気持ちになった。
チャオチュールを食わない。
そんな馬鹿な。
世の中の全ての猫がその魅力には抗えないと思い込んでいた。
世の中の全ての猫がそれを皿に出すよりも先に直接それを舐めにくると思い込んでいた。
こいつはチャオチュールを出しても無視を決め込み、皿に出しても匂いを嗅いでは離れていく。
まあ確かによく考えれば人間でもカレーやラーメンが嫌いな稀有な人もいる。
実際僕は果物を一切食べないという異常な人間だ。
こいつに文句を言える立場ではない。
しかしチュールは気付けばなくなっているので奥さんが食べたのでなければ、猫がなんだかんだ食べているんだろう。
チャオチュールにテンションが上がってくれないと困る。
ご褒美がないと嫌がる行為(病院や爪切り)がやりにくい。
何たって近々去勢手術がある。
彼をゲージに入れ、タクシーに乗せ、病院に預け、引き取る。
という任務がある。
まず彼はなかなかゲージに入ってくれないので、チュールで誘き寄せたいところだがこの技は使えない。
そんなことも知らずに彼は呑気にフローリングに横たわり撫でろと無言の圧をかけてくる。
もうすぐ金玉を取られる彼を不憫に思いいつもより長めに撫でてやった。
様子がおかしい。
それは猫ではない。
恐らく今日病院に連れて行こうという気負いを纏った僕の様子がおかしいのだ。
そしてそんな気配は猫はすぐに見抜くのだ。
朝からクローゼットの奥に身を隠す愛猫の首根っこを掴んでゲージに押し込む僕の姿は知らない人が見たら動物虐待に見えるかもしれない。
ベンガルとシャムのハーフというくらいなもんでデカイしパワーも凄い。
なのでもちろんこれは虐待なんかではない。
男と男の勝負なのだ。
いや、このあと金玉を取られるこいつと最後の男と男の勝負なのだ。
そう考えると少し切なくなったその瞬間。
トイレの用を足した後の猫砂を踏みしめていた、その肉球を僕の顔面に押し付けて抵抗してきた。
もうこいつに情けは必要ない。
首根っこを掴んで、ゲージに詰め込む。
我が子の聞いたことのない鳴き声が鳴り止まないタクシーは永遠に感じられた。
しかし動物病院に着くと途端に静かになる。
空気というものを確実に察知している猫を見て、人間はなんて鈍感な生き物なのだろうかと考える。
動物病院の前の道の空は広く、東京ということを忘れる。
病院の先生を前にした我が子はまさに借りてきた猫。
その目は僕に恐怖を訴えかけている。
ように見えるのは人間のエゴなのか。
「数時間後にまた迎えにきてあげてください」
我が子への申し訳さなが先生の笑顔に少し救われた。
今週も金玉を取るところまでいけず。
来週こそ金玉取ります。
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