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[#96] 何とも言えない 『正しさとピラフ』
『正しさとピラフ』
「頭がおかしい人」という言葉を使うのはこのおご時世アウトでしょうか?
このコラムを書くにあたり、そういう人をどのように形容しようかと考えました。
しかし「頭がおかしい人」としか表現できなかった。
そんな人を見かけたお話。
前の家は駅から歩いて七分くらい。
道中コンビニは二軒。
駅前のコンビニを覗くと同じ電車で同じ駅に降りた人が居た。
「あぁさっきの人も家がこの駅やったのか」
でも僕はそのコンビニを利用しない。
せっかちな性格な僕はわざわざ混んでいるコンビニで買い物はしない。
家に着く前にもう一軒コンビニがある。
しかしながらそのコンビニは品揃えが悪い。
ATMもない。
トイレもない。
店員さんも仕事が出来るという感じではない。
でも僕は何にでもすぐに愛着が湧く性格でもあるので、そんな欠点も愛せてしまう。
駅前のコンビニを通過し家に近づくとさすがに人も明かりも少なくなる。
閑静な住宅街だ。
僕は慣れ親しんだ空いているがいまひとつのコンビニに入る。
牛乳を買いたかっただけなのでそれを持ちレジに向かう。
いつも空いてるレジには先客がいた。
僕と同い年くらいだろうか。
その男性はピラフを買い、温めてもらっている様子だ。
このコンビニは空いていることがメリットなのにレジで並ぶことになった。
温めている間も僕の牛乳を精算してくれればいいのだがそれもしてくれない。
期待通りのクオリティ。
でも僕はそれをわかってそのコンビニに行っているので別にクレームではない。
ピラフは温めすぎな気がした。
その辺も期待通りのクオリティでこのコンビニを愛さずにはいられない所以だ。
客の男性も満足そうに帰る。
やっと僕のレジの番が来てPayPayで支払いをお願いする。
やはりQR決済などに手間取る店員さん。
袋はいらないと告げると牛乳を裸で握りしめ僕は家に向かった。
外に出るとピラフの香りがした。
野良猫のノラが道に寝そべっている。
近所のとある人はノラのことをクロと呼んでいた。
色んな名前があるんだな。
そんな彼を横目に家路を急ぐ。
さっきからずっとピラフの匂いがする。
よく見ると僕の前をさっきのピラフの男性が歩いている。
家が同じ方向なんだなと思ったその時、彼がピラフの蓋を開けた。
「頭がおかしい人」という言葉を使うのはこのおご時世アウトでしょうか?
このコラムを書くにあたり、そういう人をどのように形容しようかと考えました。
しかし「頭がおかしい人」としか表現できなかった。
ピラフの蓋を開けそれを道に捨て、コンビニの袋も道に捨て、スプーンの袋も道に捨てた。
その捨て方も何だか様子がおかしい。
ぶん投げるような格好だ。
そしてそのまま歩きながらピラフを食べている。
恐らく酔っているのだろうフラフラしている。
二つの袋は住宅街に流れる風に吹かれていた。
僕には選択肢が二つあった。
追いかけて注意する。
見て見ぬふりをする。
家に帰ってもピラフの匂いが鼻につく。
僕は結局見て見ぬふりをしてしまった。
「頭がおかしい人」と関わらない方がいいという判断をしてしまった。
お風呂に入っても、テレビを見ていても、何をしていても。
ずっと注意すべきだったのかと自問してしまう。
あれから小さな選択を迫られる時も僕はあのピラフの香りが蘇る。
ここにこんなカッコ悪い自分を記することも選択を間違えているのではないかと思ってしまう。
だからこのコラムを書きながら、またピラフの香りがしてピラフを食べたくなっている。
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