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[#95] 何とも言えない 『サプライズの末路』
『サプライズの末路』
急に部屋の電気が消える。
ドリカムかスティービーワンダーが流れる。
ろうそくに火のついたケーキかプレートを持った店員が笑顔でやってくる。
口に手を当てて喜びと驚きの間に揺れた感情を爆発させる女性。
その向かいには百点満点のドヤ顔を決め込む男性。
「お誕生日おめでとうございます」
数名の店員はそう告げると、あとは若い者同士でと言わんばかりにテーブルから離れる。
たまたま近くに座っていた僕も拍手するくらいの協調性はある。
これまでの文章から溢れ出ていたとは思いますが。
僕はこれら一連の行為が大嫌いだ。
さっきの段落の文章から嫌悪感がほとばしっていたことでしょう。
まぁしかしそれをやるのはそれぞれの自由ですし、この多様性の時代にアウトな発言はしたくはない。
だからせめて個室でやればいいのになとは思う。
もし僕がサプライズを受ける側だとしても誰かもわからない人に拍手させるのも申し訳ないし何より恥ずかしい。
個室で気心知れた仲間内でのお祝いならハニカミながらも楽しめるのかもと思う僕です。
めんどくさくてすみません。
そしてめんどくさいを通り越し、お前最低やな。
というエピソードを今から記さないといけない。
これは自分への戒めだ。
サプライズは悪ではない。
それを眺める僕の冷めた眼球こそが悪だったのだ。
十月も半ばになると彼女がこの日空けといてと伝えてきた。
いくらバカな僕でも誕生日を祝ってくれるのだなってことはわかる。
僕の誕生日は十月二十五日。
大阪の普段は行かないような小洒落たレストランを予約してくれたとのこと。
彼女と一緒に食事している時に店の中が暗くなり例の行事があったこともあった。
その時に僕は自己中心的にああいうサプライズが嫌いだという想いを彼女にぶつけた。
彼女はめんどくさい人ねと笑ってくれていたが、今思えばその笑顔は苦笑いだったのかも知れない。
名前もわからないシャンパンを頼んでみた。
今日は私がお金出すからねと言われても、男として本当にそれに甘えて良いのかもわからない。
普段行く店より明らかに良い店ということもあり、注文する時に値段まで見てしまう自分を情けなく思った。
やってきたシャンパンは美味しい気がした。
周りの客は会社帰りのカップルなどが多いのだろうか。
ロン毛で目が見えない男は僕くらいだ。
あと、こういう店のご飯は決まって量が少ない。
プラス百円で大盛りにできるメニューなどないのだ。
でもさっきから色々言っているが、彼女との食事は楽しい。
この店に限らず、僕は甘いものを食べれないので彼女の前にはいつもデザートは二つ。
僕の分まで食べてくれる。
それを美味しそうにぺろりと平らげるのに太らないから別腹という臓器を本気で信じてしまいそうになる。
メインを食べ終え、今日も僕の前に置かれてはすぐに彼女の元に行くデザートを待った。
机のキャンドルだけが彼女の顔を照らす。
あれ?
店がほんのり暗くなった。
記憶がない。
促されて写真を撮った気がする。
死んだ顔で無理矢理笑った写真がフォルダに保存されていたから、これは現実だったんだろう。
サプライズの演出のお祝いを受けた。
彼女から。
もちろん喜ばないといけない。
でも苦手すぎて全く集中できず喜べたかも覚えていない。
彼女も僕が喜んでくれると思ってのことなのは絶対的に理解している。
しかしその時の僕の名前のない感情を喜怒哀楽に当てはめた時、僕は何を血迷ったのか「怒」をチョイスしてしまったのだ。
「僕サプライズ嫌いなん知ってるやんな?」
最低なことを言った。
彼女が悲しそうな顔をしたことだけは覚えている。
あの時の僕はサプライズなんかより恥ずかしい存在。
恥が人体化した細胞に過ぎないと今なら言えるし、単純にあの頃の自分を殴りたい。
彼女はまだそのことを覚えてるだろうか。
忘れていて欲しい。
僕の存在ごと。
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