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[#84] 何とも言えない 『人たらし』
『人たらし』
良い意味も悪い意味もあるその言葉。
でも恐らく現代では良い意味で使われることの方が多いのではないだろうか。
その時は僕も他意はなく、素直に、何となくその言葉を使ったんだ。
文脈は忘れた。
何かの打ち合わせはすんなりと終わり、話は脱線し制御不能の雑談へと変わる。
前の事務所の窓は大きく、太陽がそのまま入ってきてくれたような明るさで照明をつけるまでもなかった。
その向こうには東京タワー。
青い空に赤い鉄塔はよく映え、東京を感じさせる。
その窓がそのまま額縁になり、風景は絵画のようだった。
太陽も東京タワーも、それを嫌いという人を見たことはない。
太陽は世界を、東京タワーは日本を魅了する。
色んな理由があるのだろうが、好かれる要素みたいなものが万歳で、そして嫌味がない。
個人的はスカイツリーには少し嫌味を感じる。
理由はないし異論も認める。
個人的な感想だ。
太陽や東京タワーのように誰からも好かれるという存在。
これには何か見覚えがある。
あーキンタさんや。
別に仲良しアピールがしたいわけではない。
何ならメンバーという間柄でいうとイラッと来ることも多い。
しかしながら、周りの友達や知り合いで彼を悪く言う人はいない。
彼が嫌われているという状況が想像できないのだ。
窓から見える絵画のような風景は時間とともに色を変えた。
それを見てあぁそれだけ話し込んでいたんだなと気づいた。
雑談の中で僕は言った。
「ほんまキンタさんは人たらしやからな」
僕なりの最上級の褒め言葉だ。
雑談は続き、窓は夕焼けの絵画に絵の具を変えていた。
様子がおかしい。
というか何か不機嫌だ。
キンタさんは感情がわかりやすいが、その感情のスイッチは誰にもわかならないことも多いので誰もがいつもほっておく。
「え、そんなこと気にしてたの?」「え、そんなことが嬉しいの?」「え、そんなことが嫌なの?」
みたいなことが多いからだ。
今は「納得いかない」という感情が彼の顔に張り付いているという感じだろうかと僕は推測した。
皆んな帰り支度を始める。
夜になる前に帰れる高揚感で全員が浮き足立っていた。
キンタさん以外は。
「やっぱりあれ何!?人のこと人たらしって!!」
怒っている。
キレているというよりは僕に何でそんなこと言われないといけないのかという納得いかない感じだ。
僕はその辺の人よりは彼の思考回路をわかっているつもりなので瞬時に心でこう思った。
「あ、この人たぶん女ったらし的な悪い意味で捉えてはる。。。」
良い意味なんだということを説明したり、何なら褒めているというフォローをしてくれる周りの人のおかげで彼の中での僕への怒りみたいなものはスッと消えたに違いない。
しかしここからの彼の気まずそうな気持ちを考えると何とも言えなくなった。
せめてもの思いで僕は事務所を一番先に後にした。
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