[#77] 何とも言えない 『心が折れる』

KITSU

2022/06/20 19:00

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『心が折れる』


ギリギリ九人のチーム。

それは街のソフトボールチーム。

僕は親がコーチというだけで無理矢理キャッチャーをやらされていた。

地味な割に大変で誰もやりたがらないポジション。

僕も華々しいセンターやショートをやりたかった。

しかしうちのチームの速いだけでコントロールというものを置いてきたピッチャーの球を取れる人が居ないのだ。

もう一人居たが彼が内野を外れるとチームの守備は崩壊してしまう。

子供ながらにそんな空気を読み僕は小学生のキャッチャー用の金玉を守る用具を買った。


コロナ禍で何度も経験した。

あんなに準備したもの、あんなに想いを込めたもの、たくさんの人が関わって楽しみにしてくれているもの。

それらは病人が一人出ると砂の城を波が攫うかのように消える。

心を保つために人は理由や原因を探す。

しかしそれは理由や原因にすがっているのだ。

立ってられない。

人は心が折れると同時に背骨も一緒に折られるのか、立っていられなくなる。

あぁ小学生の時のソフトボールの試合みたいだ。


町内のチームは僕らともうひとチーム。

そのもうひとチームがめちゃ強い。

僕らは人数もギリギリの寄せ集め。

毎回完敗なのだが同じ町内で簡単に試合を組めるため、お互い力の差は理解しながらもよく練習試合があった。

そうは言っても試合用のユニフォームを着れるのは嬉しかった。

普段は胸に西浦と漢字で書かれたユニフォームだが、試合の時は胸にNishiuraと筆記体で書かれたユニフォームになる。

その筆記体がかっこ良かったのだ。


就活の際の模擬面接で理由もわからず自分の名前が言えなかった時の背中を流れる汗。

バイク事故を起こして入院先のベッドから眺めた天井の模様。

メンバーのドラムが抜けた時にメンバーが泣いていたあの景色。

コロナになってしまいツアーの延期を知らせる時のスマホの明るさ。

そのどれもが僕の心を押しつぶそうとした。

しかしポキッという音は聞こえない。

僕はなかなか頑丈な心を持っているのかもしれない。

もしくは柔軟な心を持っているのか。

心の性質をことあるタイミングで試されている。


ピッチャーがストライクが入らない、ライトの子は守備位置で座っている、誰もバットに当たらない。

そんな選手が揃う僕らのチームは守備時間の方が長い。

圧倒的に。

それだけボコボコにされているのだ。

僕はキャッチャー用のプロテクターを真夏の炎天下でずっと装着しピッチャーの暴投を体で受け止める。

それだけで心が折れそうだった。

不憫に思ったのか監督が途中で僕をセンターにした。

キャッチャーとは思っているよりも重労働なのである。

「カキン!」

このいい音を今日何度聞いたかわからない。

ホームラン級の打球が休憩のつもりでセンターを守っている僕の頭を越す。

走って追いかけるが土のグラウンドを超えて奥の草むらにボールは紛れ込んだ。

夏の草むらは青々と茂り、雑草はボールを隠す。

いくら探してもボールはない。

この間にも打者はベースを回る。

お気に入りの白いユニフォームに緑の染みがたくさんつく。

「ランニングホームランや!!」

こんな歓声が聞こえてボールを探す僕の心は折れた。

草むらのあの夏の匂いだけまだ鼻先にへばりつく。


色んな障害や問題を乗り越えたし、これからも乗り越える。

しかしながらあのランニングホームランだけが僕の心を折った。

このコラムを書きながら考える。

そして結論した。

「あの頃の僕の心は真っ直ぐだったのだ」

そして「年を重ねるにつれ僕の心は曲がっていったのだ」

折れるからには真っ直ぐなものは折れやすいのだ。

僕は心が折れないなんて、何を思い上がったことを。

それはお前の心がまっすぐではないだけだ。

そんな事実に心が折れそうだ。





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