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    [#62] 何とも言えない 『敬語』

    KITSU

    2022/03/07 19:00

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    『敬語』

     

    BIGMAMAの金井氏は僕と仲良くしてくれ、彼が紹介してくれ仲良くなった人も多数。

    でも金井氏がその人たちとタメ口で話すもんだから、金井氏よりも年上の僕はその人とタメ口でいいのかと思いタメ口で話す。

    数時間後その人が実は僕よりも年上で、金井氏のタメ口は今までの関係性や金井氏特有の愛嬌で許されているとわかる。

    そうなるともう後には引けない。

    向こうも僕のタメ口にムカついてる感じはない。

    いや腹の底ではわからない。

    でもなんてったって僕は後には引けない。

    そんな感じで今でも年下なのにタメ口の僕と仲良くしてくれるサトヤス氏などがいることを感謝せねばならない。

     

    もはやこの歳になると別に数個の歳の差なんてどうでもいい。

    しかし誰もがそう思うかはわからない。

    一年先に産まれただけなのに縦社会を重視する人もいることもわかっている。

    なので僕は明らかに歳が離れていると判断した時以外は相手と敬語で話す。

    実際年下なんだろうなと分かっていても敬語だ。

    もしものリスクヘッジは行う。

     

    煙が色んな匂いを運ぶ。

    焼き鳥、生ゴミ、排気ガス。

    渋谷の居酒屋が建て込む一帯はそんな煙でもやがかっている。

    東京に出てきて友達もいない中、誰かが誰かを紹介してくれ初めましての人と飲むことも増えた。

    指定されてたのは安さだけが取り柄の居酒屋。

    こういう店の酒は次の日まで残る。

    「初めまして、LEGOBIGMORLっていうバンドのギターのヒロキです」

    タナカなんて平凡すぎる名前を言っても覚えてもらえないだろうし、何より吃音でタナカは言えない。

     

    何かの機会でネットで知った。

    恐らくこの人は同い年だ。

    早生まれなどの罠ではない限り同い年だ。

    しかし彼はそれを知らずか、僕と同じメンタリティなのか。

    僕に終始、丁寧すぎるくらいの敬語で話しかけてくれる。

    それに反応して僕も自分ができる限りの敬語で話す。

    社会経験のない僕の敬語など恐らく文法も言葉のチョイスも間違っているのだろう。

     

    酒も進んでいく。

    酒は心も口も緩ませていく。

    話す内容から同世代なんだろうと向こうも気付いているはずだ。

    歳を確認すれば良いだけなのに、今更それを聞くのも野暮なんじゃないだろうか。

    そんな空気が焼き鳥の煙と一緒に充満している。

    トイレに立つことすら、その煙が阻む。

    意を決したのか彼が言った。

    「もうお互い敬語やめませんか?」

     

    横の席の見ず知らずの人と肩がぶつかりそうなくらい店員は客を詰め込んでいく。

    酒が安い理由はそんなところにもある。

    それは企業努力と言えよう。

    酒が入ってなければ恐らくそんなに面白くはない。

    必要以上にでかい笑い声が僕らのテーブルで起こる。

    「もうお互い敬語やめませんか?っていうセリフが敬語ですやん」

    僕は反射的に関西人の血が沸き立つかの如く突っ込んでしまった。

    敬語で。

    「あ、ほんとっすね」

    と笑う彼もまだ敬語だ。

     

    今でも渋谷でその一帯を通り抜けると服に匂いと、脳にその思い出が染み込んで一定時間消えない。

     

     

     

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