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[#57] 何とも言えない 『衣装』
『衣装』
それぞれの好みもはっきりしてきたもんだ。
昔は同じ店に洋服を買いに行くこともあった。
同じようなジーンズに、同じようなカットソー。
時代性もあった。
アメ村から堀江へと生息地を変え、セレクトショップを周る。
たぶん人生で一番服に金を使っていたあの頃。
堀江にあるアーバンリサーチのカフェでお茶するのがカッコいい。
そんなあの頃。
色んなブランドの服を着させてもらった。
仕事柄ありがたいことだと思う。
スパッツくらい肌に張り付くスキニー。
ノースリーブや赤いパンツ。
気に入ったものは買い取れたりもする。
衣装は戦闘服でもあり、音楽を届ける装置でもあり、鎧でもあった。
戦闘服としては舐められないように。
装置としては音楽に寄り添い。
鎧としては未熟な自分を隠すために。
あのショッピングを楽しむためだけに堀江を歩いていた単純なワクワクの匂いが今は懐かしい。
冬の寒さは僕の背中を丸める。
堀江の路地裏で吸うタバコの煙は白い息と混ざり濃い。
缶コーヒーの空き缶を灰皿にして自分自身との会議は続く。
背中が丸いのは寒さのせいだけではない。
決死の思いで高価なアウターを買うか迷っているのだ。
堀江の寒い風が僕の丸まった背中を押す。
タバコの火を消し歩き出した先にはアメリカンラグシー。
カードなんて持っていなかった僕はATMで一万円札を数枚おろした。
それぞれの好みもはっきりしているため最近は服が被るなんてことはない。
それぞれの好きな店やブランドもなんとなくわかる。
しかし人気があるブランドの服を選ぶと誰かと被ることはある。
それが嫌で僕は古着を選ぶことが多い。
その古着がハイブランドだとしても古着ならではの味が加わっているため一点もの感を味わえるってもんだ。
今ではスタイリストではなく衣装は自分で探すことが多い。
もう用意して着させてもらうような歳でもない。
下北の古着屋さんで買ってきた衣装が入った紙袋をポンと投げテレビをつける。
すぐにハンガーにかけた方がいいことはわかっているがめんどくささが勝利した。
テレビでは芸能人が華やかな衣装で仕事をしている。
「この無地のTシャツも何万円とするんやろな」
嘲笑うかのように、負け惜しみのように。
ある若手のバンドが登場した。
絶賛売出し中なのであろう。
僕も名前くらいは知っている。
そのメンバーが着ているシャツに見覚えがあった。
パンツとの合わせ方が違うのですぐには気づかなかった。
なんとなくテレビは消してツイッターを開いた。
バンドマンのタイムラインにはやはりバンドの情報が嫌でも流れてくる。
某バンドのライブが無事終わったのであろう、汗はそのままに楽屋で肩を組んでライブ成功を告げる写真だ。
そのメンバーが着ているシャツは先ほどテレビで若手バンドが着ていたソレだ。
どこのブランドかも知っている。
しかし誰もが知るブランドではない。
それでもこんなに被るのはどういうことだろうか。
バンド業界だけで流行っているのか?
そう思わずにはいられない。
なぜならシンタローもそれをライブで着ていたから。
この嬉しくはない感情の名前を教えてくれ。
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