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[#55] 何とも言えない 『DIYってなんの略?』
『DIYってなんの略?』
また彼だ。
洗濯するくらいの頻度で面白いことを言ったりしたりする。
彼とは僕のバンドLEGOBIGMORLのボーカル、キンタさん。
もちろんキンタとはあだ名でカナタが本名だ。
うちの社長が車でメンバーを送り届けてくれる時に、決まってキンタさんを下ろす場所がある。
大きい通りの交差点だ。
たぶんうちのバンドは仲がいい方なんだと思う。
他のバンドをしたことがないので自覚できないが、周りによく言われる。
その度に、逆に皆んなそんな仲悪いの?と思ってしまうほど僕らは自然体で話す時は話すし、うざい時はうざい。
僕らにとっての普通がそれだっただけだ。
その日は雨でいつもバイクのシンタローも社長の車に乗り、各自を家へ落としていく。
順番も決まっていて、シンタロー→キンタ→僕といったコースだ。
何故なら僕の家は社長宅に一番近くて、その順番が一番効率的なのだ。
「ほなまた明日!」
シンタローが車から降りる。
少しまだ雨も降っていたので小走りのシンタローは明らかに走り方がおかしい。
この人ほど普段運動していない人もなかなかいないと思う。
車はキンタ宅を目指す。
いつもの東京の景色は雨を含んで艶っぽい。
信号機以外も看板や電飾版や店の灯り。
これらが雨粒に滲んで一層存在感を増す。
キンタさんが降りる交差点がもう見えている。
その交差点に前からあるようで、いつもは目につかない看板が今日は目についた。
「DIY」とアルファベットが光っている。
「DIYって何の略かわかる?」
彼の天然エピソードを欲しがる僕は意地悪にもよくこんな質問をしてしまうことがある。
「ドゥ、ドゥ、ドゥーイット、、、ユアセルフやろ」
かなり自信がなかったのだろうが正解されてしまった。
その看板が光るのは会社なのか店なのか。
交差点の角地にそれは構えられていた。
看板を見るだけでは何屋さんなのか理解できないでいた。
「うわ!あれってDIYをやってくれる店なんかな!?」
キンタさんが叫んだがそのセリフは文章として欠陥があることに彼は気づいていない。
車内は爆笑に包まれた。
特に社長は運転しているが事故ってしまうくらい笑い転げている。
本当に転げてたら事故るのだが、それくらいの勢いだ。
「DIYの意味わかってるよな?」
僕が聞く。
「自分でやるってことでしょうよ?」
彼はこう答えたんだからわかっているのだろう。
ならば「DIYを”やってくれる”店」という文章がおかしいことに気づかないのだろうか。
結局その店が何の店かわからないまま彼は違う街に引っ越したので、彼との帰路でももうそこを通る機会が少ない。
今僕らは事務所を独立し、社長とメンバーの三人だけでバンドを回している。
いわばDIYなのだ。
「Do It Yourself」
僕らは一人で何もできなくて、メンバーがメンバーに甘えて、スタッフに甘えて、お客さんに甘えて。
そのチームを一つの人格と捉えることが許されるなら。
僕らのチームはDIYで頑張っている。
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