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[#51] 何とも言えない 『サンタさんは枕元以外にもやってくる』
『サンタさんは枕元以外にもやってくる』
たぶん何かの変身ベルトだ。
それが欲しくて仕方なかった。
ボタンを押せばベルトのバックルは光りながら回転し僕をどこかの世界に連れて行ってくれる。
「サンタさんにお願いしとき」
そうか、誕生日を終えた僕にもまだチャンスは残っていたのだ。
クリスマスだ。
べルトってのは長いものだし、サンタさんも靴下に入れやすいことだろう。
実家に父方のじいちゃんばあちゃんと暮らしていたので、毎週土日どちらか母方のじいちゃんばあちゃんの家に行く。
それが当たり前だったので周りの人が自分のおじいちゃんと当分会っていないと聞くと不思議な気持ちになったし。
今でも土日になると、実家や親戚の家に行きたくなる。
全員でサザエさんとジャンケンをしたいのだ。
色んなクリスマスが僕を通り過ぎた。
でも幼い頃のじいちゃんばあちゃんの家で過ごしたクリスマスを一番鮮明に覚えているのはなぜだろう。
たぶん僕が単純にクリスマスを、プレゼントを楽しんだ以外の感情が芽生えたからだろう。
その年のクリスマスは日曜日。
ご飯も食べ、全員でサザエさんとジャンケンをし終えた。
「今日はじいちゃん家にもサンタさん来るかもやで」
そう言われていた僕と弟はソワソワしてサザエさんとの勝負にも実が入らなかった。
ばあちゃんは皆んなに熱いお茶を入れ、台所でフルーツを切っている。
あの狭く使い勝手の悪そうな台所。
ばあちゃんは巧みにそこの動き回る。
じいちゃんが言った。
「そういえば、こないだサンタさんが来てどこかにプレゼント隠して帰ったぞ」
今日来るって言うてたやん。
設定曖昧やなぁ。
変身ベルトは光り輝きながらも少し憂いを帯びているように感じた。
今このベルトで変身しても体の右半分しか変身できないのではないか。
そのくらいのパワーしか発揮できない気がした。
僕の記憶が確かならば。
じいちゃんばあちゃんの家は当初和式で、まだ足首が柔らかかった小さい頃は難なく用を足すことができた。
子供ながらにまさかサンタさんもあそこには隠すまいと考えたので、トイレ以外の場所を隈なく探した。
プレゼントはどこだ。
しかしもうあそこしかない。
トイレに入るとタンクの後ろにいつもはない箱がある。
弟が叫んだ。
「プレゼントあったー!!!」
それを持って弟が居間に走っていく。
僕は素直に喜べずにいた。
和式のトイレにプレゼントが置いてある景色を今でも覚えている。
衛生面はもはやどうでもいい。
あの景色のシュールさをシュールという言葉を知らないあの頃も感じ取ることができたからだ。
そして窓のないトイレにサンタさんがどれほど体を張って忍び込んできたのかを想像していたのだ。
もう余計なことは考えるのはよそう。
純粋な子供に戻り、思いっきりプレゼントの包装紙を破こう。
一つスイッチを入れるかのように、仮面ライダーがベルトで変身するかのように。
僕は大声をあげ喜んで見せた。
「僕のプレゼントもあったー!!!」
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