ハートをおくったユーザー

ハートをおくったユーザーはいません

    [#238] 何とも言えない 『溢れる』

    KITSU

    2025/08/04 19:00

    フォロー

    『溢れる』

     

    溢れる

    【動】

    量が多くて容器に入りきらず、外へ出てしまうこと

     

     

    同じ漢字なのに読み方が何個もあるなんておかしい。

    今でもそう思う。

    溢れる。

    あふれる、こぼれる。

    どちらももちろん意味が違う。(似てるけど)

    あの頃は溢れ出る衝動が多かったのか。

    それとも人間としての器の容量が小さかったのか。

    その両方なのか。

    喜怒哀楽とそれに分類されない感情全てが溢れ出てとめどなかった。

     

    「夏フェスに盛り上がる曲を書いてよ」

    晩御飯は冷蔵庫の残り物でチャチャっと作っちゃってよ。

    みたいな感覚でスタッフに言われた。

    簡単に言いやがって。

    でも出来ないと言いたくなかった。

    スタッフも工夫をしていた。

    「プロデューサー入れてみよっか!」

    初めて曲作りにプロデューサーが入ることになった。

    若い僕らはプロデューサーと聞くと曲を”売れる感じ”にする悪者と間違った理解をしていたが彼はひたすら”待つ”ことをしてくれる人だった。

    その代わりなかなかOKは出さない人だった。

    千本ノックのような日々が始まる。

     

    本能に逆らうなとか。

    衝動が合図だとか。

    そんなことは何となくはわかっている。

    わかっているというより聞いたことがある。

    でも本当の意味でそれを理解できているかと言われれば自信がない。

    つまりわかったふりをしている。

    右目で見え透いてる明日を待ち、左目で秘密の昨日をバレないように眺めてるのだ。

    でももうそんな斜に構えた姿勢はいらない。

    両目で前を見据えるのだ。

    僕らはセカンドシングルを出す。

    もう後戻りは出来ない。

     

    夏の曲は夏には書かない。

    スケジュール的にそんなうまいこと行かない。

    アパレルの人たちも冬のダウンコートを猛暑の夏に作っているのだ。

    僕らは寒い時期にあの暑い夏を想像して書く。

    僕はなぜか特別な記憶は秋や冬に多いし、そっちの季節の方が好きなのだ。

    秋と冬の方がドラマチックでロマンチックと認識している節もある。

    夏。。。。

    何を描けばいいだろうか。

    思いつく独自の夏らしいワードをあげる。

    汗、溶ける、夜の耳鳴り、蛇遣い座、またねと挨拶する夏休みの夕暮れ、おーい!空に叫ぶ声。

     

    「45点!」

    プロデューサーは歌詞にダメ出しをする。

    でも的を得ている気がして言い返せない。

    「32点!」

    ボーカルのキンタさんが作ったメロディもダメ出しされている。

    これを繰り返し続け朝を迎えた。

    そんな日が何回かあった。

    メロディと歌詞は手を繋ぐもの。

    2人であーだこーだ言いながら作る。

    それはまるで夏休みの自由研究。

     

    「もうサビでハロー!って叫んじゃえば?」

    「インキュバスの曲でもサビのお尻でハローハローって言うてるやん?あれを逆に頭に持ってきてさ!」

    「ほーほーええやん」

    何日経過しただろうか。

    「120点!!」

    プロデューサーが満面の笑みでサビの歌詞をメロディに点数をつけた。

    音楽に点数も答えもないけどそこに自分達で辿り着けた経験は僕らを大きくした。

    あの男の子たちは夏休みを境に大人になったのだ。

    リリース後のインタビューで”Hello”の歌詞で始まる曲に名曲が多いが、この曲もそれに該当する。

    そう言ってもらえた。

    とても嬉しかったがそのインタビュアーさんがどなただったかを忘れてしまった。

     

    ライブという特殊な行為を年に何回もさせてもらっている。

    これは本当に感情が溢れ出して壊れそうになる。

    でももしバンドが解散でもしてライブができなくなる状況になったとする。

    たぶん僕は本当の意味で壊れてしまうと思うのだ。

     

    ただただ確認したい。

    デビューはある程度華々しくさせてもらった。

    でも時間が経てば新たなバンドは永遠にデビューして僕らは忘れられるんじゃないだろうか。

    その努力の仕方もわかっていない若造は”Can you hear my voice?”と叫んだ。

    でも答えは自分で探し出すしかないと知った。

    本能に逆らわず、衝動を合図に僕らは今もライブをしている。

    あの頃よりは少し良くなった頭も使って。

     

     

    『溢れる』

     

    右目で見え透いてる明日を待つ僕は

    左目で秘密の昨日をバレないように眺めてる みんなそうだろ?

    汗みたいに吹き出してくる愛も欲望も不満も隠さなくていい

    曝け出してしまえば後はもう両目で前を見りゃいい

     

    Can you hear my voice?

    ほら、届くだろ?

     

    Hello 本能に逆らうな

    Hello 衝動が合図だ

    感情が溢れ出して壊れそうだ

    Hello まだ見ぬ明日にも

     

    夜の沈黙がうるさくて僕の全部をOFFに 溶け落ちてく

    蛇遣いは夏の空へ 僕は今どこに? 消えてしまうの?

     

    Can you hear my voice?

     

    Hello 本能に逆らうな

    Hello 衝動が合図だ

    すべてを肯定しようと思うんだ

    Hello 僕がいた昨日も

     

    感情が溢れ出して壊れそうだ

    Hello 試されてる今日も

     

    おうさ、答えは自分で探し出すのさ

    今日はここでグッバイ 素敵な未来にハロー

     

    こちらのコラムが気に入った方はハートでのご支援をお願いします。

    支援金の一部は、吃音症で苦しむ方々のNPO法人へ寄付されます。

     

    ページを報告する

    コピーしました

    コピーしました