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[#198] 何とも言えない 『何とも言えない打ち上げ』
『何とも言えない打ち上げ』
宇都宮でのライブは楽しかった。
あれは何年前だろうか。
いつも宇都宮なら日帰りなのでライブ後打ち上げもせずそのまま車で帰ることが多い。
でもその日は対バンも多かったこともあり交流の意味も込めて打ち上げがあった。
靴を脱いで座敷に上がる。
「ビール以外の人ー?」
誰かが仕切ってくれている。
人に心から怒りが湧くことは多々ある。
それでもアンガーマネジメントみたいな言葉も知らないあの頃でも時間が経てばその沸騰した怒りは緩くなることがほとんど。
でもあの時は血管の中が沸騰するような熱が自分の体から感じられた。
じっくり考えても、ゆっくり冷静になっても怒りで手の震えが止まらないのだ。
「ちょっとあいつだけは許されへんわ」
車内でメンバーにそう呟いたら全員が賛同してくれたので少しだけ安堵した。
でも一応こんな言葉も補足した。
「いや、あのバンドのメンバーは皆んないい奴らやったけどな」
そう、バンドの彼ら自体は問題ではなかった。
あんなクソなスタッフと仕事しているのかと思うと不憫になるほどに。
飲み会でも打ち上げでも同じだ。
「はい、そろそろ閉店なんで皆んな出ましょうか~」
時間になってもなかなか店から出ない人。
店には出たが店の前で全員が出てくるのを待つ人。
僕はせっかちなのでお開きなのだから早く帰りたいのだが、たまに「一本締めしましょう!」みたいなノリもあるので一応待つ。
(ちなみにそういうノリは嫌いじゃない)
ぞろぞろと宴を終えた者たちが店から出てくる。
帰りの運転があるので各バンドのマネージャーたちはシラフであるが、それ以外の人は良い顔になっていた。
たぶん僕も鏡を見れば同じような顔をしていたに違いない。
その店にはもう僕らしかいなかったようで最後の誰かが店を出てすぐに表の提灯の灯りは消えた。
その瞬間。
「ピュン!ピュン!ピュン!」
「パン!パン!パン!」
物凄い破裂音がして、火が見えた。
酔っているわけではない。
いや、嘘です!
酔ってはいるが、そんな幻想を見るほどは酔っていない。
「熱っ!!!!」
口から自然に出たその言葉に僕は今熱かったんだと教えてもらう。
全員が電柱に隠れたり、身をかがめている。
僕は何が起きているのかもわからず皆んなの視線を辿るとロケット花火を乱射する男がいた。
夏でもない。
いや夏だとしても良いわけない。
僕ら皆ロケット花火が終わるのを物陰で待つしかできない。
僕も慌てて店の看板の裏に隠れた。
大袈裟だが、戦時中ってこんなんなのかもなとその時少し思った記憶がある。
でも直撃したら普通に怪我をしてしまう規模の花火だ。
そして自分の耳が痛いことに気づく。
あの熱かった時に花火が耳をかすめていたのだ。
でもまずあいつは誰なんだ。
花火が終わっても千鳥足の乱射男はまだ煙を出す筒状の花火を持ったまま。
「〇〇さん!何してんすか!?」
誰か数人がその男に向かって走り、しっかりしろと言わんばかりに肩を抱き寄せる。
暗がりで見えなかったがよく見ると今日対バンしたバンドのスタッフだ。
全員が呆気に取られている中、僕の耳の痛みははっきりしている。
酔っている彼を数名が車まで誘導しようとしているが僕は我慢ならない。
「ちょっと耳当たってんすけど!」
驚いたことに乱射男は何やら僕に言い返そうとしている。
それに一番ムカついたが、酔っているため何を言っているかわからないし関係者がそれを制するように頑なに車へ誘導する。
僕はまだまだ文句があったが乱射男は離れていく。
「本当にうちの〇〇さんがすみません!!!!」
その乱射男が担当するバンドマンがとてもとてもきちんと謝ってくれる。
「いや、君らが悪いわけじゃないから君らが謝らなくていいよ。気にせんといてね」
僕はそう返すしかないけど我慢できなくていらんことを言ってしまう。
「あんなクソなスタッフがおるバンド可哀想やわ。どこの世界によそのバンドマンにロケット花火打つ奴おるねん」
言っていることは正しいとは思う。
でも彼らが一層申し訳ない想いをするしかない言葉だったと思う。
怒りで震えた手を止めるにはこのくらいの言葉を吐かないと自分が保てなかったのは言い訳になる。
数年後。
そのバンドとラジオ局で会った。
僕は彼らには何とも思っていなかったし、早く対バンしたいと思っていたがその機会がなくここまで来た。
「久しぶり!」
笑顔で僕がこう言っても彼らの第一声はあの時の謝罪だった。
「もうほんまにいいよ。君らはほんまに悪くないよ!」
僕もあの頃と同じようなことを言っている。
楽しい打ち上げの記憶はたくさんある。
でも何とも言えない打ち上げはそんなに多くはない。
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