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    [#15] 行間と字余り 『OPENING THEME』

    KITSU

    2021/04/15 19:00

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    『OPENING THEME』


    【名】〔映画などの〕オープニングテーマ[主題曲]


    アルバムの最後の曲がない。

    できない。

    「A」で終わるには悲しすぎる。

    何か未来が、光が見える曲でこのファーストアルバムを終えたい。

    初めて僕は歌詞をタイトルから決めて書いた。

    それはアルバム最後の曲で「OPENING THEME」だ。

    どこまでひねくれているのか。


    中学時代サッカー部に所属していた。

    別に強くはない。

    でも市内や隣町の中学よりは強い。

    そんなところだ。

    だからこそ勝ったり負けたりを繰り返していた。

    ちなみに中学の時シンタロー率いる隣町の中学に6-0で勝った。

    彼らがクソ弱かったことだけ覚えている。

    そんな感じでも勝てば喜び負ければそれなりにヘコんだ。

    感受性がえぐいお年頃の僕には負けた時に聴くB’zのバラードは効いた。

    でもそれよりも帰り道の公園で皆んなであーだこーだ言いながら飲む炭酸と夕焼けは効いた。

    夕暮れはさよならの合図だ。


    ないものねだり。

    これはとても人間らしい。

    花が隣の花に嫉妬するだろうか。

    大丈夫、何も持っていない者なんていないよ。

    そんな言葉や歌は腐るほどあるのに、また何かに嫉妬してないものねだりする。

    そしてまたそんな言葉や歌に励まされる。

    励まされるということは、つまり忘れていたということ。

    人は何回だって忘れる。

    大丈夫、何も持っていない者なんていないよ。

    ってことを。

    そして人間には手は二本しかない。

    無理して色々持とうとしても両手からは溢れこぼれ落ちることでしょう。

    それは荷物などの物理的な物質もそうだが、目には見えない抱え込んだ気持ちや想いもそんなには持てない。

    人は何回だって忘れる。

    人は一人では生きていけない。

    心許せる人。

    そんな多くなくていい。

    その人に少し持ってもらってもバチは当たらない。


    それぞれが自分のオープニングテーマを持っている。

    別にそんな大げさな話がしたいのではない。

    何かを始める時に頭の中で流れ出す曲。

    ない?

    僕は何曲かある。

    そんな話をメンバーとしたのを覚えている。

    この曲がLEGOを聴く人のそれになってくれたら嬉しい。

    そんな話をメンバーとしたのを覚えている。

    山梨の合宿所はタバコの煙か吐く息の白さかわからない気温になっていた。

    合宿が終わろうとしている。


    我がサッカー部の最後の公式戦はPK戦での敗北で訪れた。

    持ち前のメンタルの弱さでPKだとゴールの枠の外に蹴ってしまう僕はPKを蹴らず仲間の背中を見て、ただ祈っていた。

    こういう話ではよくある話だが、うちのチームで一番サッカーの上手い「南」という友達がPKを外しチームは負けた。

    彼がPKを外すところを見るのはこれが最初で最後だった。

    でも彼はいつも通り感情を表すでもなく整列し相手チームに一礼をしベンチに戻った。

    周りの僕らは敗戦を悲しむよりも先に彼をフォローした。

    でもそのフォローも必要ないほど普通に帰り支度をする彼を見て少し安心すると同時に負けた悔しさが僕らを覆った。

    いつもの帰り道の公園。

    なんだかいつもより多く駄菓子を買う。

    なんだかいつもの試合後とはやはり違う。

    でももう皆んな敗戦ムードからは脱却できていた。

    笑い話。

    懐かしい話。

    しょうもないギャグ。

    夕暮れが近づきさよならの合図。

    その時「南」が突然わんわんと泣いた。

    夕焼けが彼の顔を染めているのか泣き顏が赤いのか。

    それを見ている僕の視界も滲んでいく。

    皆んな顔と目が真っ赤だ。

    少し時間を置き、僕らは泣き腫らした顔が見えなくなる夜を待って家路についた。


    アルバム最後の曲は、次のセカンドアルバムへの最初の曲だ。

    そう発想を転換し曲作りをし、そこから言葉が生まれた。

    サビの歌詞はサビができると同時に舞い降りた。

    つまりそのまま。

    僕はこのデモ音源を聴きながら、その音符に合う言葉を集めただけ。

    その想いを集めただけ。

    僕らは最後の曲でありながら次のアルバムの一曲目を書いていた。

    それはもう僕らの次へのオープニングテーマだった。

    もちろんあなたの人生のオープニングテーマになれば嬉しい。

    でもあれから世の中にはそんな曲が腐るほど生まれ続けている。

    このコラムを読んでもう一度この曲があなたのオープニングテーマになればもっと嬉しい。

    再確認の方が今は嬉しい。

    いつでも僕らは昨日が終われば今日がオープニングなんだ。

    そして明日は勝っておいで。



     『OPENING THEME』

    欲しいものはだいたいいつまでも

    他の人が持ってんだ you know?

    でも誰かが欲しがるものはもう

    実は君が持ってんのかも you know? I know.


    今日負けてしまったあの子は悲しい歌を聴いた

    悲しい時に悲しい歌なんて聴かないで


    溢れた分なら持ってあげるから

    持てるだけ持って走っていこう you understand?


    今日負けてしまったあの子は楽しい歌を聴いた

    悲しい時に楽しい歌で明日は勝っておいで


    始まりの時 浮かんだ音符を集めたら

    それはもう君のオープニングテーマなんだ


    この歌があれば

    これ以上何を欲しがる

    ものがあると言うんだ?

    ねえ? もう大丈夫だろ?


    弱音を吐いた時 浮かんだ音符を集めたら

    それはもう君のエンディングテーマになってしまうよ


    始まりの時 浮かんだ音符を集めたら

    それはもう君のオープニングテーマなんだ


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