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[#189] 何とも言えない 『各家庭のおまじない』
『各家庭のおまじない』
各地方にまつわるおまじない。
地方ごとなのか、各家庭ごとなのか。
何か根拠があるのか。
「夜に口笛を吹くと泥棒が来る」みたいな。
でもこれは我が家では「夜に口笛を吹くとヘビが出る」だった気がする。
このような独自のおまじないはありますか?
自慢じゃないが目が大きい。
こればかりは遺伝なので仕方がない。
最近はそうでもないが小さい時はよく「めばちこ」が出来ていた。
めばちこが方言なのは知っている。
今となっては。
当時は方言だとは知らなかったが今はそれを標準語で「ものもらい」ということも知っている。
めばちこは関西の方言。
我が家ではめばちこが出来たらオトンの出番なのだ。
靴流通センター。
田舎の大きな道路沿いに立ちはだかる店。
その建物の中には靴だけがビッシリ詰まっている。
周りの田んぼからは蛙の鳴き声。
無駄に広い駐車場。
新しい靴を買ってもらった。
一番古い記憶ではJリーグのヴェルディ川崎モデルのスニーカーだったと思う。
あの頃はJリーグが開幕し、カズやラモスや北澤だ。
大阪に住んでいるのにヴェルディ川崎の人気が凄かった。
ちなみに人生で初めてもらったサインはヴェルディ川崎のゴールキーパー「菊池新吉」
この人がわかるあなたは同世代。
わからない人はスルーで大丈夫。
話がそれましたが、そのスニーカーを買ってもらった僕はテンションが上がり今すぐにでも履きたい。
靴の箱にプリントされた武田修宏も白い歯でこっちを見て笑っている。
しかし我が家では新しい靴を履く時もオトンの出番なのだ。
「お父さんに言うてめばちこ治してもらい!」
普通に言うオカンは自分の旦那を医者だとでも思っているのだろうか。
そんな家に生まれているなら僕は今頃こんな下品には育っていない。
言われるがままオトンに”診て”もらいにリビングに行く。
するとめばちこに「ハーハー」と温めるように息をかける。
寒い時に自分の手を温める時にする「ハーハー」だ。
しかも目に超至近距離で。
今考えるとめちゃくちゃキモい。
なんだこの儀式は。
そしてベランダの遥向こうに見える二上山という山に早く治りますようにと拝めと言う。
(一応言っておくと変な宗教とかじゃなく我が家は普通に仏教徒だと思います)
次の日起きるとめばちこが治ってるんやから僕は医者の息子なのかもしれない。
「お父さんにサラの靴履く言うておいで」
サラというのは新品という意味で関西弁のも今は知っている。
これは至ってシンプル。
何故かサラの靴の裏側(地面につく箇所)を一瞬ライターの火で通すのだ。
その儀式を通過すると晴れて靴を履けるのだ。
これは何故なのか調べてみると大阪府は堺市周辺の風習らしい。
その頃は調べもせずに「そういうもん」としか思っていなかった。
でもこれをやってもらって玄関を出ると何だか足が軽く感じたもんだ。
田んぼの畦道を歩く、ドブを飛び越える、鬼ごっこの鬼から死ぬ気で逃げる。
これら全て靴が僕を運んでくれる。
道に落ちてる犬の糞を踏んだって少しへこむだけさ。
「エビデンスあるんですか?」
まずカタカナが嫌いだ。
そしてこのセリフが嫌いだ。
でもこれだけ言いながらたまに無駄なカタカナ使っている自分が一番嫌いだ。
なんでも根拠があって、なんでも意味があって、なんでも背景があって、なんでも理由があって、なんでも美学があって。
そんなわけない。
説明できることだけを求めてしまうとこの世に残るのはたぶん物理的な豊かさ。
オトンのおまじないにエビデンスなんてあるわけがないけど、それを楽しめるのは心の豊かさ。
きっと僕はそれが好きで「何とも言えない」だなんて抽象的なコラムを書いている。
今日も。
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