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[#184] 何とも言えない 『海でおじさんはやってしまった』
『海でおじさんはやってしまった』
海の思い出なんて多くもないし少なくもない。
つまり一般的なものしかない。
家族で行ったな、彼女と行ったな、スイカ割りしたな、花火したな。
など。
でもこの数年海水に入っていない。
海水どころかサウナ以外で水にも浸かっていない。
いつからかこれが当たり前になった。
海にや川やプールに行くことは夏には当たり前だったのに。
あのビニールのバッグや浮き輪の匂いは僕をノスタルジックにさせる。
数年前田中家総勢十二人で海に行った。
全員田中だ。
そのうち子供の数は六人。
僕も田中家では子供扱いなので僕を入れると七人。
僕だけ東京からの参戦なので飛行機で関西の海水浴場に向かう。
子供なのに飛行機に乗れるなんて偉い。
シーズン真っ只中の飛行機は信じられないくらい高かった。
海パンに見えない海パンで空港に向かう。
浜辺に着いた瞬間に海に飛び込むためだ。
みんな車で大阪から向かっているが僕だけ飛行機のため少し遅れての到着となる。
遅れを取り戻すためにも海パンで向かうくらいはする。
何たって僕は子供扱いなのだから。
何時間でも海に入っていられるのは子供の特権。
親戚の大人たちは簡易的なテントやパラソルで入念に日陰を作る。
レジャーシートの上が定位置になる。
そこから一人二人と子供たちに海に連れられ生贄となる。
しかし僕が遅れて到着したからにはもう大丈夫。
僕はこの中で唯一の体は大人、頭脳は子供の「逆コナン君」なのだから。
僕も何時間でも海に入っていられる。
「親戚の大人たちよ、パラソルの下で休んでいるがよい」
空港から到着した僕は荷物とスマホだけはレジャーシートにぶん投げて、Tシャツのまま(下は既に海パン)海に走った。
甥っ子、姪っ子たちも。
六人もいれば一丁前にそれぞれ個性が出てきた。
大人しいやつ、うるさいやつ、運動ができるやつ、できないやつ。
全員のオムツを替えてきたおじさんとしては感慨深いものがある。
浜からダッシュで帽子もサングラスも取らずに来たままの姿で海に飛び込んだおじさんはそれなりに甥っ子姪っ子たちにはウケた。
一番うるさくて、一番調子乗りで、運動神経が良い甥っ子を捕まえた。
やっぱ海といえばこれでしょ。
そいつを放り投げた。
「ザバーン!!!」
子供たちが僕もやって、私もやってと列を作るほんの少し先の未来を想像して。
しかしどうだろう。
ぶん投げた甥っ子は海面から出ると大号泣していた。
「え。。。そういうキャラやっけ?」
僕の冷や汗は海に溶けながら慌ててそいつを優しく抱っこした。
でももう遅い。
泣き止まない。
完全に嫌われている。
年に数回会う精神年齢が同じくらいの友達と思われている自負はある。
しかし今はもうただただ、いらんことする大人なのだ。
「ヒロキが〇〇を泣かしよった!!!」
他の子供たちがパラソルの下で休む大人たちに報告に走る。
「やめろ」
睨まれている。
そしてよそよそしい。
あれ以来その甥っ子は僕に壁を作っているように思う。
車の中でもホテルでも、大浴場なんて以ての外。
あの年の夏以来、田中家恒例の海水浴に行けていない。
挽回のチャンスを逃している。
今年も行けない。
仕方ない。
正月に多めのお年玉でも包んでみるか。
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