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[#167] 何とも言えない 『せっかくの休み時間』
『せっかくの休み時間』
小学時代や中学時代の昼間。
外から運動場を眺める大人がいた。
「平日の昼間に何してるんやろ」
子供ながらに僕はその大人を逆に眺めていた。
何十年と経ち。
僕が今平日の昼間に小学校の校庭を眺めた。
あの頃の僕は大人は全員平日は会社で働いているもんだと思っていた。
自分がバンドマンになって気づく。
世の中には平日に休みの人もいるし、土日に働く人もいる。
平日の昼間にジムに行く大人もいるんだと。
それが僕だ。
通うボクシングジムは土日はもちろん、平日の夜は仕事終わりの人たちで混む。
平日の昼間にジムに行き、帰ってから仕事をする。
あの頃僕が眺めていた平日の昼間に校庭を眺める大人はタイムスリップした今の僕かもしれない。
チャイムが鳴ると一目散にサッカーゴールへ走った。
他の生徒にサッカーゴールを取られないようにするため。
誰かが先にいる場合は仕方なくバスケゴールを取った。
サッカーボールでレイアップシュートをしていた。
一輪車で遊ぶ女子たち。
休み時間でも教室から出てこない友達。
田舎なので運動場は広い。
たまに野良犬が入ってきては大騒ぎになった。
休み時間には夢があった。
ジムに向かう道中に小学校のグラウンドが見える。
恐らく今は休み時間。
子供がそれぞれに遊ぶ。
空は快晴。
こんな平日の昼間にボクシングで汗を流す優越感と身体中に溜まる乳酸を感じながらの帰路。
彼らも皆、快晴の休み時間を目一杯使い果たす。
「何とも言えない」というコラムを書いている。
これは特に大きなドラマでなくとも日常の中にある小さなことが面白かったり、愛おしかったりする模様を書こうと思い始めた。
もちろん吃音で「言葉が言えない」ということのダブルミーニングでもある。
ハリウッドさながらのドラマなんて日常にない。
あっても一生に一度や二度。
日常の小さなドラマにこそその人それぞれの血が流れる。
カラスの鳴き声が人のクシャミに聞こえたとか。
急に暖かい気候になったのにダウンジャケット着てしまっている人がいたとか。
良い歌詞書けたとか。
そんなことをコラムにしたい。
行きはアウターを着て、帰りはアウターは自転車のカゴの中だ。
ボクシングの全身運動は真冬でも体を熱くする。
グラウンドではボクシングなんてしなくても生きているだけで元気いっぱいの小学生たちが半袖で遊ぶ。
何をして遊んでいるのかと金網越しに目をやる。
するとグラウンドには何十人もの小学生たちがブリッジをしていた。
僕が見える範囲の全員がだ。
「せっかくの休み時間に全員でブリッジすな!!!」
自転車を漕ぎながら全力で突っ込みたくなるほど関西人の血が騒いだが口に出すと平日の昼間に話しかけてくる本当にやばいおじさんになるところだったのでやめた。
帰って何十年振りだろうか。
家のリビングでブリッジをしてみた。
何だか意外に楽しい。
彼らが休み時間という貴重な時間を使ってやるのも理解できる。
そんなおかしな様子の僕を平日も休みも関係のないうちの猫があくびをしながら眺める。
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