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[#164] 何とも言えない 『チャットモンチーが』
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『チャットモンチーが』
デビュー当時。
今思えばすごい豪華な対バンイベントに参加させてもらえたものだ。
出番はだいたいトップバッター。
観客の目当ては僕ら以降のバンド。
新人バンドはそこで爪痕を残さねばならない。
器用なバンドではない。
今のようなしたたかさもない。
予定調和を嫌い、ワンマンでもないのにシングル曲を演らないでいたりする捻くれ方をしていた。
でもそれら全てをただただひたむきに、一生懸命演っていた。
周りに目もくれず間違った道を全速力で走っていた。
小さいことでケンカをし、ステージでは一生懸命を履き違えた僕は暴れ回っていた。
場所はZepp福岡。
デカい会場だ。
普通に学生の時に聴いていたバンドが対バンだ。
もはやリアクションができない。
いちいち喜ぶのはダサいと思っていた一番ダサい時期だ。
横目で「うわ、本物のチャットモンチーや」と認識し、興味ないふりを続けた。
神様はいないのか。
そんなことを思ってしまう。
なぜ今なんだ!というタイミングでの機材トラブル。
原因不明の機材トラブルってのは実際によくある。
バンドマンあるあるだ。
思い起こせば交通事故から復活した一年ぶりのリキッドルームでのライブも神様はいないのかと思った。
一曲目でいきなり音が鳴らなくなったのだ。
普段は何事もなく終わるライブも、今日こそはという日に限ってそういうことが起きる。
Zepp福岡でもそれは起きた。
本番後、僕はうなだれていた。
もう次のバンドの演奏が始まり重低音が響くステージ裏。
無機質な壁の模様だけははっきり覚えている。
自分の機材を隈なくチェックするも特に故障している箇所はない。
なんでこんな大きなライブでトラブルが起きるんだ。
それ以降の二曲はエフェクターを通さずやり抜いたが、本来出したい音ではなかった。
ただ必死でやった。
必死さなんて才能のない者が最後にすがる道具だ。
帰りは十二時間ほどかけての車移動だ。
寝ても起きても寝ても起きても車内。
暗い車内で目を閉じてもトンネルの等間隔の照明は瞼を貫通する。
そんな憂鬱な帰り道も今日は悪い気分じゃなかった。
あんな機材トラブルがあったのに。
サービスエリアで食べる味気ないご飯も美味しかった。
とても気分が良いのだ。
無機質な壁の模様を眺めながら思った。
今日のライブではお客さんの心には届かない。
十二時間もかけて車で来たのに僕は何をやっているんだ。
無機質な壁から横に目をやると、チャットモンチーが居た。
なんだこの景色は。
有機質な笑顔が僕に向けられていた。
そしてこんな有機質な言葉を投げられた。
「ライブめちゃくちゃカッコよかったです」
こんな僕なんかに敬語だ。
まずそう思った。
その後に水道の水がお湯に変わるようにゆっくりと喜びが体を温めた。
必死さが良かったのだろうか。
必死さは才能のない者が最後にすがる道具で何が悪い。
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