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[#161] 何とも言えない 『初めての飛行機』
『初めての飛行機』
なんと僕が初めて飛行機に乗ったのは二十代になってからだ。
大学の卒業旅行で北海道のニセコに行ったのだ。
それまでは海外はもちろん、飛行機で行くような遠い場所にも行ったことがなかった。
これがなかなか恥ずかしい。
友達にいじられまくった記憶がある。
「パスポート持っていかなあかんで?」
これは流石の僕でも嘘をつかれていることくらいはわかる。
「墜落した時用の保護カプセルが一人一人にあるで」
そんなものがあるのか?
でもテレビでそんなの見たことがない。
「機内食はジンギスカンやで」
北海道行きだからか?
それはほんまっぽいなと思った。(もちろん後に嘘だとわかる)
「新幹線より座席が狭いで」
海外にも行くような優雅な空の旅なんだからそんなわけない。
しかしそれは本当の話だった。
「スチュワーデスさんが綺麗やで」
それは本当なら単純に嬉しい。
感情はかき乱され、一応パスポートの取り方だけは調べはした。
今では仕事で飛行機に乗らせてもらうこともある。
仕事ならスタッフがチケットを取ってくれるからまだ安心だが、プライベートで自分で手配する時の不安感は一生拭えない。
買う時期で値段も変わるし、まず本当にきちんと買えているのか?とネット決済などをいまいち信用できていないおじさん感が溢れ出てしまう。
でもなんだかんだ窓側の席ならワクワクするし、金属探知機を通る時はドキドキする。
前にも書いたが。
機内で映画を観るならトップガン一択だ。
何回も観ているのにだ。
作中で戦闘機が飛び立つ少し前のシーンで一時停止を押し、実際自分が乗っている飛行機が離陸するタイミングに合わせて再生ボタンを押す。
機内アナウンスが流れると映画は一時停止してしまうがそれもご愛嬌。
自分がマーヴェリック(トムクルーズ)になった気分を味わえる。
おすすめだ。
僕の記憶ではANAだったと思う。
スチュワーデスさんの首には空よりも青いスカーフが巻いてある。
彼女たちはモテモテで毎日機内の男にナンパされているという情報だけはあった。(実際は知らんが)
しかし初めて生で見るスチュワーデスさんは綺麗で大人でこんな人に名刺や電話番号を渡す男は、余程自分に自信があるか、痛いやつしかいないんじゃないかと彼女たちの笑顔に会釈するしかない大学生の僕がいた。
もうすぐ離陸。
彼女たちの緊急脱出時の説明をあの機内で一番真剣に聴いていたのは僕だ。
これは間違いないと思う。
初めての飛行機への緊張と、あんなに説明してくれているのに誰もきちんと説明を聞いていない景色に「僕は聞いてますよ!」という態度だけは示そうと思ったためだ。
北海道はすぐに着く。
あんなに緊張していたのが嘘かのように。
窓の下には白い化粧をした街。
広大な土地。
ぽつりぽつりと見える民家。
そこには一人一人の人生がある。
初めて来る場所の会ったこともない人の人生を思う。
国内線には食事は出ない。
ましてやジンギスカンなど出るわけもなく飛行機は着陸態勢に入る。
友達は着陸時の僕のリアクションを馬鹿にしようとニヤニヤしながら僕を見る。
おもろいリアクションなんてしてやらないぞ。
飛行機の記憶があり過ぎて、空港からニセコにどうやって行ったか覚えていない。
電車?バス?
そのくらい飛行機での思い出は僕を高揚させた。
最後にスチュワーデスさんと写真を撮ったのだ。
なぜそんな流れになったのか覚えていないが、綺麗な人だったことは覚えている。
関西の男子大学生のノリに快く応じてくれて感謝しかない。
友達たちはノリだったんだろうけど、僕はきちんと真正面から緊張していた。
まるで芸能人と写真を撮ってもらうかのように。
機内から出ると息は白いが、大阪でも息は白かったと後に思い出した。
その数日間は北海道の白に飛び込み自分を洗濯してもらった気持ちだ。
大学の卒業旅行ということは友達たちとはそれぞれの道へ。
公務員、サラリーマン、経営者、バンドマン。
それぞれの場所に飛び立つ。
空港の様子はまさにそれを表していて少し泣けた。
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