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[#158] 何とも言えない 『二郎系と新年の挨拶』
『二郎系と新年の挨拶』
ラーメン二郎をご存知だろうか?
野菜マシマシ、ニンニク、アブラ。
こんな呪文を唱える。
山盛りの麺と野菜とニンニク。
これはもうラーメンではなく二郎という食べ物。
目黒店に足繁く通った。
店内は常に緊張感を漂わせる。
調理の音と、ラジオ、そして山手通りのエンジン音。
そして麺を豪快にすする音。
それ以外に音を立てる者はいない。
二十九歳と三十歳の誕生日は二郎目黒店でディナーをした。
仕事終わりのメンバーやスタッフがご馳走してくれた。
野菜にロウソクを立てた写真が残っているが、二郎でそんなことで時間を使ってはダメなので二秒でそれらの行為を終わらせた記憶がある。
もちろん無言で。
店長と助手の二名。
黙々とラーメンを作る。
二郎好き界隈で噂があった。
助手のお兄さんが近々独立するらしい。
場所は下北沢。
目黒より僕の家からは行きやすい場所だ。
あんなオシャレな街に二郎臭を漂わせようなんて助手のお兄さんもやるぜ。
知っている人もいるかもしれないが。
今ではその独立した店にはLEGOBIGMORLのサイン入りポスターを貼らせていただいている。
入口の一番目立つところだ。
二郎や二郎系といえば店員さんの愛想が悪いと認識している人も多いかと思うが、確かに愛想が良いわけではないです。
でもこちらとしてもラーメンを求めていくわけで、サービスを求めていくわけではないので必要以上の愛想はいらないわけです。
今日の麺、スープ、豚の具合を楽しむ。
二郎目黒店ほどではないが、いい緊張感が店内には流れる。
新しい店も行列ができ大盛況。
さすが十年以上目黒店で修行していたお兄さんだ。
年越しそばという文化があるならば、新年二郎という文化を僕は作っている。
おせちや餅はもういらないのだ。
正月が明け実家から東京に戻ってきた僕は気づけば行列に並んでいた。
いや確信犯だ。
アウターに手を突っ込みかじかんだ手を温める。
食券を握りしめながら。
かじかんだ手では二郎系の極太麺に負けるのだ。
正月ということもあってかお兄さん一人で店を切り盛りしていた。
いつもはバイトの女性がいたりするのに。
いわゆるワンオペというやつだ。
大変そうだ。
「こないだはボーカルさん来てくれましたよ」
お兄さんはカウンター越しに僕に話しかけてくれる。
でもお兄さんは基本的に僕らのような常連以外には口を開かない。
目黒二郎も独立後もそれなりに通っているから顔も覚えられ、今ではバンドのポスターも貼ってもらえるようになったが他の人にももう少しは愛想良くしたらどうすか?
とも思うが、それをやってしまうとあの独特の良い意味での緊張感というものがなくなってしまうのだろう。
店のブランディングに関わるものだ。
軽々しく意見なんて言えない。
でも僕だけに優しく話しかけてくれる嬉しさ。
それと共に他のお客さんへの申し訳ないさと、他のお客さんからの視線が痛いのだ。
早く熱々のスープを啜りたい。
行列はほぼ男性。
店主のお兄さんは永遠に麺を茹でて丼にスープを作る。
目が合う。
するとカウンターからお兄さんが出てくる。
麺が茹で上がるのを待っているひと時だけ彼の手は止まる。
「新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
大行列の中、なんと僕だけに新年の挨拶をしてくれたのだ。
僕だけに。
いや、嬉しいがこれは気まずい!!!
他の列の者からの視線。
真冬なのに噴き出る汗。
こんな「なんとも言えない」状況はあるのか。
「こちらこそ今年もよろしくお願いします。。。」
めちゃくちゃ空腹だったお腹が少し満たされてしまった気持ちになった。
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