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[#152] 何とも言えない 『女湯へと』
『女湯へと』
入浴料五百円とサウナ利用料三百円。
かかるお金は八百円。
千円で支払うと二百円のお釣りをもらう。
その二百円でサウナ上がりのコンビニでデカビタCを買う。
僕のホームサウナでのルーティン。
綺麗な都心のサウナ施設も良いが、混んでるし高い。
やはりサウナは近所の街の銭湯に限る。
空いている、近い、安い。
これが正義。
だって本当は歯磨き感覚で毎日行きたいのだから。
おじいさんか入れ墨のおじさん、若い人は数人。
その中で彷徨う金髪のロン毛の男が一人。(僕)
いつもサンダルを入れる下駄箱の番号も、衣服を入れるロッカーの番号もだいたい決まっている。
口コミには店員の愛想が悪いと書かれているがそんなことはない。
人の言うことなんて当てにならないなと思うが、何かを買う時にレビューを見てしまうのは何なんだろうか。
「入浴料とサウナで八百二十円です」
「え?」
空は雲ひとつなく、まだサラリーマンたちは働いている時間。
そんな時に入るサウナは最高なのだ。
百八十円でもデカビタCは買える。
それでもいつもお釣りを二百円貰っていた身としては値上げにビックリした。
でもこれは都内全体の先頭の値上げによるものだからこの銭湯を責めているわけではない。
僕は財布すら持っていかない。
小さな小銭入れに千円札だけ入れて歩く。
そこにお釣りとして百円玉一枚と十円玉八枚。
せめて五十円玉を混ぜてくれと思ったが大きな口を開け小銭入れが待っていた。
いつも番台にて使い捨てのリンスinシャンプーを貰う。
リンスなんてこれっぽちも入ってないんじゃないかと思うほど洗うといつも髪がキシキシになる。
タダで貰えるシャンプーに贅沢は言ってられない。
そのパウチを貰いながら小銭入れに硬貨を流し込んでいると十円玉が一枚こぼれ落ちた。
大きな口の小銭入れもいつもより枚数の多いお釣りにはお腹いっぱいということだろうか。
十円玉は意志を持ったかのように女湯へと転がっていく。
十円とはメスなのか。
それともすけべ心を持ったオスなのか。
街の銭湯では男湯に当たり前のように番台のおばちゃんが入ってくる。
この令和の時代でもだ。
誰もそれを問題にしようとしていない。
もちろん隠すべきところは隠れていない人がほとんどだ。
でもこれが逆。
女湯に男が入るなんて令和どころか昭和でもアウトだろう。
僕の十円玉は真っ直ぐ女湯へと向かう。
足の裏で慌てて踏んで止めようとするも止まらない。
「女湯」と書いてある暖簾に触れるか触れないかのところで転がりをやめた十円玉。
その一部始終を見ていたのが番台のおばちゃんと、その常連のおばあちゃん。
「お兄ちゃんならそのまま女湯で浸かってくれてもいいよ~」
「はははははは」
江戸っ子たちの冗談は僕を安心させてくれた。
「別にそのまま女湯入っても困る客はうちにはいないよ~」
「ははははははは」
そんな冗談を言い合う女性二人。
僕は「いやいやいや、ははは」と苦笑いするしかなかった。
関西人として完敗だ。
そして何と言っても東京の銭湯のお湯は熱い。
数分しか入れない。
でもずっと入っているおじいさんがよく居る。
完敗だ。
帰りのコンビニ。
先程貰ったお釣りでデカビタCを買う。
サウナ後の最高の乾杯だ。
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