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    [#149] 何とも言えない 『家出』

    KITSU

    2023/11/13 19:00

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    『家出』

     

    家出と出家では意味が大きく変わるのは何故だろう。

    しかしよく考えると大きな視点で見たら同じような意味合いなのかもしれない。

    今回は家出の方の話をする。

     

    小さい頃よく家を追い出されていた。

    玄関の外だ。

    一応言っておくと虐待の類ではない。

    確実に僕が悪くて叱られていただけだ。

    毎日何かしらで怒られては毎日泣いていた記憶がある。

    このご時世泣きわめく子供が家の外にいたら問題かもしれないが、あの頃は躾として当たり前だったのか。

    それともあの頃からおかしくて田中家だけがスパルタだったのか今ではわからない。

     

    今思うとこんな大きなドブに柵も蓋もないなんて危険な通学路だと思う。

    少し前に実家に帰った際に小学生の頃の通学路を歩いた。

    夕暮れ時の帰り道、ドブに入って靴の中を濡らした記憶が蘇る。

    そのドブに沿って坂を登ると仲の良かった亀井くんの家に辿り着く。

    実家からは歩いて五分くらいだろうか。

    しかし小学生が一人で歩く五分は心細さも相まって果てしない時間に感じる。

    「ほなまた明日!」

    すっかり暗くなってからお別れするもまだ靴の中は濡れたままだ。

     

    昔から怪我をしまくる少年だった。

    大人になっても交通事故で死にかけるとは思っていなかったがそういう星のもとに産まれたのだろう。

    これからも気をつけないといけない。

    初めて身体を縫ったのはそのドブ沿いの道を自転車で三人乗りした時だった。

    荷台の一番後ろに乗った僕は二番目の人のお尻に押され自転車から落ち道で頭を打った。

    小さい子にとって頭からの血を見るだけで大号泣案件で、そこからの記憶はない。

    気付けば頭を縫っていた。

    そこから一ヶ月ほどメロンを包む網状のアレみたいなものを頭に被らないといけないことになる。

    恥ずかしすぎたし、メロンの気持ちがわかった。

     

    毎日怒られまくる僕も知恵がついた。

    晩御飯前に玄関の外に立たされた僕も泣いてばかりはいられない。

    いくら締め出されてもまだ晩御飯を食べていないのだから腹は減る。

    あの頭を縫ったドブ沿いの坂を登れば亀井くんの家だ。

    もう家出するしかない。

     

    数分後、反省しているかと玄関を確認したオカンもさぞビックリしただろう。

    居るはずの僕がいないのだから。

    幼い我が子が消えた。

    僕はというと亀井くんの家に辿り着いた。

    泣き腫らした目でピンポンを押すと亀井のおばちゃんは驚きながらもすぐに家に入れてくれた。

    もう親とは今生の別だ。

    そう心に誓っていた僕はおばちゃんに家出してきたと説明すると、おばちゃんは爆笑していた記憶がある。

    「とりあえずうちも丁度ご飯の時間やから一緒に食べ!」

    そう言ってもらい亀井くんと並んでカレーを食べた。

    あの味はなんとなく今でも覚えている。

    いきなり温かいご飯にありつける家出もこの世にはある。

     

    数分後オカンが迎えに来た。

    密告をした亀井のおばちゃんに裏切られた形だ。

    「ごめんな!うちのアホが!」

    そう言ってオカンが僕の頭をはたいた。

    後にも先にも家出をしたのはこれだけ。

    大きく道を外すことなく生きてこれたのも両親のおかげだろうが、頭をはたかれた時はせめてもの抵抗として前だけを見つめながらカレーを食べ続けた。

    僕の短すぎる家出は終わった。

    エンドロールはドブ沿いの道を歩く僕とオカン。

     

     

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