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[#147] 何とも言えない 『ボクシングを習う理由』
『ボクシングを習う理由』
まずはもう良い歳だし身体を作りたかった。
だらしない身体のギタリストは萎える。
引き締めよう。
でも気づけば引き締まるというより筋肉が大きくなっている気がする。
こんなはずじゃなかった。
最近はバスに乗るのが好きだ。
電車よりも人が少なく高確率で座れる。
それでいて電車よりも目的地の近くまで乗せてってくれるんだから。
座席で耳にヘッドホンで蓋をして音楽を聴く。
一番自然に音楽に触れられる時間かもしれない。
右側の座席を避けたのはそこには直射日光が当たっていたため。
最初に言っておきたい。
やればやるほどわかるのだが、ボクシングとはスポーツだ。
とても神聖な物だとわかる。
野蛮な乱暴者の殴り合いとは違う。
技術の応酬。
僕はまだまだそんな域に達していないが間違いなくそうなのである。
少し混んできたバスの車内。
「席変わりましょうか?」
というセリフを言わなければいけなくなる前に席を立つ。
照れくさいからだ。
バスの出入り口付近に立つと車窓からの景色が変わったからか同じ曲が違うように聴こえた。
僕はかれこれ一年位ボクシングをしている。
ダイエット感覚で入会したジムだが、今では強さに憧れるようになった。
全身運動なのは間違いないのだが意外にも腕ではなく足が疲れる。
乳酸でパンパンになる。
パンチとは足で打っているのだ。
相手にパンチを届かせるのも手を伸ばすのではなく足で距離を測るのだ。
かと言って街で腕っぷしを試したいわけでも喧嘩をしてみたいわけでもない。
もちろんそんな場面に出くわせばビビってしまうに違いない。
でもどこかでこんなことを思ってしまう。
「ムカつくことがあっても、まぁこいつ僕が本気出したらジャブと右フックでボコボコにできるしな」
もちろんそれを行動には移さない。
でもそんな男としての自信と余裕を持つためにボクシングをしているのかもしれない。
(初めの目的はダイエット)
腰に「ドン」という衝撃があった。
バスが停まったので乗客が降りやすいように出入り口に立つ僕はなるべく身体を壁側に押し付けた。
その時に腰に弱い衝撃があった。
振り返るとおじさんとおじいさんの間くらいの男が僕を睨みながらバスを降りた。
よく見ると拳を握っている。
「え?」
と声を出した僕は気のせいかと思ったが降りたバス停からおじさんとおじいさんの中間の男は僕を睨み続ける。
もちろん痛くはない。
中間の男のパンチなど。
しかし猛烈に腹が立った。
バスの中の僕と、降りたばかりのバス停に立つ中間の男の睨み合いは続く。
①こいつを警察に連れて行く。
怪我はないけれど男が傷害罪にでもなればいい。
②こいつをジャブと右フックでボコボコにする。
僕が傷害罪で捕まる。
そんな二択を迫られているとバスの扉は閉まり③の僕がただただ我慢するに落ち着いた。
「ムカつくことがあっても、まぁこいつ僕が本気出したらジャブと右フックでボコボコにできるしな」
呪文のように心で唱えては自分を落ち着かせる。
僕はこんなおじさんとおじいさんの中間の男を殴るためにボクシングをしているのではない。
男として強くなるためだ。(本来はダイエット目的)
本当に自分や大切な人に命の危険があった時だけ拳を使いたい。
でもその拳はまだまだ弱い。
中間の男よ。
僕があなたよりも大人(歳は下だが)で命拾いしたな!!
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