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[#140] 何とも言えない 『でかい音鳴らそう、あっちまで聴こえるように』
『でかい音鳴らそう、あっちまで聴こえるように』
「兄さん、明日ムロフェス行くんで時間あったら会場で会いましょねー」
LINEが来ていた。
「頑張るでー」
と返信してムロフェスに備えて寝た。
あ、明日のセトリの一曲目は偶然にもあいつが好きな「Ray」や。
と枕で目を瞑った時に思った。
綺麗な顔をしていた。
その子が飼っていた猫は誰が引き取るのだろうか。
リハーサルを早退させてもらい駆け付けた会場の駐車場。
セミがうるさい中、顔を見た時だけは全ての音は止まる。
綺麗な顔をしていた。
よくうちに飲みに来ては彼氏の愚痴に花を咲かせる。
愚痴はやがてノロケ話になり酔っ払いながらご機嫌に帰っていく。
近所ということもおり、留守の際のお互いの猫の面倒を見合ったりもした。
あいつの猫はすぐ僕の指を噛みやがる。
ムロフェスの本番が終わり落ち着いた時間帯に連絡があった。
「兄さんどこいるんですか?」
「今楽屋やから顔見にいくわ」
そう言って会場に出るとほろ酔いの彼女が居た。
「一曲目Rayとか泣きますわ~」
なんて言いながら僕も見てくれてありがとうねなんて返す。
「LEGOのおかげで今年の夏始まりましたわ!!」
「いや、お前年中夏みたいな女やがな」
なんて会話をして別れた。
それが彼女との最後の会話。
深夜にまで及ぶ撮影。
楽屋に置いた携帯を触ったのは午前一時。
着信があったので飲みの誘いかな?とかけ直すと彼はすぐに出た。
「仕事っすか?」
「うん、こんな時間までやってたわ。どうしたん?」
「仕事中にすみません。じゃあ簡単に言います。〇〇が亡くなりました。」
「え?は?は?」
撮影スタジオに居たスタッフたちが僕に視線を向けるほど取り乱してしまった。
そこから先の記憶はない。
彼女の実家で行われた告別式。
東京からは遠いけど行けるもんなら行きたかった。
でもその日は七月のmonthly LEGOBIGMORLと同じ日。
こればかりは仕方ない。
全力でやる。
偶然にも一曲目は「美しい遺書」
勘弁してくれとギターを抱く。
でも僕にバンド、ライブ、お客さんが居て本当に良かったと思った。
ライブ中は全てを忘れて音楽に真摯に向き合った。
「Ray」を演奏する時が来た。
でかい音鳴らそう。
あっちまで聴こえるように。
いつもより大きな音が鳴るエフェクターをサビでこっそりと踏んだ。
あの子の夢を見た。
いつもみたいに爆笑しながら飲んでた。
「でも兄さんこれ夢やねん、ごめんな」
って途中でその子に言われて。
「俺もそんな気がしててん。じゃ起きたらもう会われへんからずっと寝とくか!」
って言うて。
また普通に笑って飲んでる。
って夢。
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