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[#133] 何とも言えない 『虹の作り方』
『虹の作り方』
六度八分の体温の午後。
冷たい嘘をついた。
町はスピードを早めて動き、僕は置いてけぼりをくらう。
人はスピードを上げ走り出し、時を置いてけぼりにした。
そのスピードは大きい口で僕を一飲み、抜け殻が残る。
雨は泣き止み、拭いきれずは水たまり、そこに映るはビル。
水たまりを踏む、ビルは粉々の水滴に、そこにできるは虹。
こんなメモを残した僕はあれから虹を渡った。
嵐が去った後に綺麗に咲く花みたいに健気に揺れていたが、確かに咲いていた。
代償は大きい。
溢れたのは川だけではない。
僕にキャパシティというものがあるとするなら懺悔や後悔、そして感謝が洪水となり僕を襲う。
それを見せないように僕の軽口にも拍車がかかる。
窓は絵画。
天気が良ければ富士山の絵画が。
天井は空。
雲や星はない。
交差点は地獄絵図。
台風の目みたいに僕だけが止まっていた。
動けないでいた。
肺が押し潰される。
買ったばかりの服を着ていた。
そんなことを思った。
スローモーションや走馬灯なんて嘘だ。
フォークとスプーン。
毎回のことで気にしていなかったが、右手を使えない僕への配慮なんだろう。
しかし僕が左利きだと知って看護師さんが笑っていた。
その笑顔すらも嬉しかった。
夕食からはお箸に。
毎日来てくれるシンタロー。
一回だけノンアルコールビールを持ってきてくれたキンタ。
それぞれの性格が表れていていちいち泣きそうになる。
涙のわけは感謝よりも申し訳さが鼻差で優っていた。
回る寿司。
目黒の坂は急だ。
ギブスをつけた腕にはカーディガンがちょうどいい。
高いネタをたくさん食べろと友達の金井は言う。
退院して初めての外食。
流石に病院では生魚は出てこなかったから特別美味しかった。
帰りのコンビニで買ったペットボトルの蓋はまだ自分では開けられない。
虹だ。
虹みたいな無条件に嬉しいもの。
勝手に笑っちゃうもの。
虹みたいなものを見たい。
描きたい。
書きたい。
それまでの雨を忘れたかのように馬鹿みたいに笑いたい。
雨がないと虹はできないのに。
あの事故から今年で十年。
昨日は七月十六日。
七色(716)の日だ。
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