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[#132] 何とも言えない 『野良猫』
『野良猫』
野良猫が居る。
引越しの時から奴は居た。
触らせてはくれない。
しかし家の周りをウロウロしている。
ニャーニャーと僕の目を見て何かを訴えているが猫の気持ちはわからない。
前の住人が餌でも上げていたのか。
その声はたまに部屋の中に居ても聞こえては我が家の猫たちもその声に反応している。
飯をくれ。
なのか。
暖かい部屋に入れてくれ。
なのか。
とにかく何かを訴えている。
「すまんのぉ」
と呟きながらも一定の距離を保つ奴にさよならをする毎日。
奴はなんという名前なんだろうか。
祖父や祖母や愛犬や友達。
それなりに年を重ねればもう絶対に会えない人や犬も居る。
天国でゆっくりしててほしい。
が、やはり会いたい。
そんなことは無理なのはわかっているんだけど。
ゴミ捨てはいつも深夜に行う。
マンションのルール的にはOKだがそんな時間にゴミを出すのは我が家くらいなのだろう。
まだ誰のゴミもない。
すると決まって奴がやってくる。
少し離れた場所からニャーニャー話しかけてくる。
真夏も真冬も。
「大丈夫か?飯食ってるか?」
なんて話しかけることも多いが深夜の住宅街で変質者扱いされるのもごめんだ。
なるべく小さい声で僕は話しかける。
それの倍くらいの声量で奴は何かを訴えてくる。
「そんなデカい声出るなら大丈夫か」
そう呟いて自分の家へ入ろうとする。
その後を一定の距離を保ちながら追いかけてくる奴。
週に二回のゴミの日はだいたいこの流れがあるのだ。
「まさかワカメの生まれ変わりか!?」
ワカメというのは去年亡くなった僕の愛犬。
「もしかして死んだ爺ちゃん!?」
野良猫の体を借りて何かを訴えているのかもしれない。
そんなことを考えてしまうと言うと、僕の頭がおかしいと思われるだろうか。
もちろんこの思考の時はその野良猫の本来の自我なんて無視してしまっていることは理解しているし申し訳ないのだが。
こんなにも話しかけてくる。
何だかそう思わずにはいられないのだ。
雨が雪に変わる。
うちの猫はエアコンの暖かい風が直接当たるクッションの上で腹を出して寝ている。
こいつらはもう野良猫にはなれない。
外に出たら一日で死ぬだろう。
そんな愛猫を眺めながら、あの野良猫の奴を想う。
あいつ大丈夫だろうか。
奴のお気に入りスポットを知っている。
それは向かいの家の庭の芝生。
太陽を浴びならが死んでるのかと心配になるくらい気持ちよさそうに眠っている。
「あぁ昨日の雪も大丈夫だったんだな」
そう思いながらそれが野良猫だってワカメだって爺ちゃんだって幸せそうに寝てるならいいかと。
そんな眠る奴を見てリハーサルへ向かう。
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