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[#94] 何とも言えない 『長男と次男とは別の生き物である』
『長男と次男とは別の生き物である』
両親の悪いところを全部僕が引き受けて、両親の良いところを弟が全部引き受けたみたいだ。
弟が親に怒られているところを見たことがない。
幼い頃からだ。
家族の話をこのコラムではよくしていると思うが弟の話は初めてではないだろうか。
昔は小さい時はとても太っていて相撲部屋にスカウトされたこともある。
今ではシュッとして僕よりも背が高い。
常に僕と喧嘩してはバチボコに泣かしていた記憶がある。
しかしある時から喧嘩はなくなった。
後から聞いた話だが成長するにつれ、彼はこう思ったらしい。
「あ、そろそろ兄ちゃんに喧嘩で勝ってしまう」
僕はガリガリで弟は逞しく、それぞれが成長していた中、兄のプライドを傷つけないためにも彼はそう判断し喧嘩をしなくなった。
彼には子供がいる。
双子の男の子だ。
双子と言っても二卵性で顔がそっくりなわけではない。
しかしどちらの顔にも弟が幼かった頃の面影がある。
不思議なものだ。
巧みに大阪弁を話す甥っ子を見てエモ口なる。
東京で長く暮らしている僕にとって大阪弁の子供は珍しい生き物に見える。
僕もその一人だったのに。
高校生くらいの時、僕が家に帰るとオカンに代わって洗濯をしたり、料理をしたりしている弟がいた。
料理も簡単な男飯という感じではなく、コロッケやグラタンなど手の込んだもの。
その頃の僕は洗濯機も炊飯器も触ったことすらなかった。
毎年正月は我が家にはとんでもない数の親戚が集まる。
田舎あるある何だろう。
でもそれを当たり前の日常として過ごしていた僕にとっては一番素敵な時間だった。
集まってご飯を食べることも好きだし、なによりとんでもない数(とんでもない金額ではない)お年玉が貰える。
将来自分がとんでもない数の親戚にお年玉をあげなければいけなくなるとは思ってもみなかった。
そんなお年玉はきちんと二月までには使い果たしていた。
駄菓子や、文房具。
洋服や、アクセサリー。
整髪料や外食。
成長につれお年玉の使い道は変わっていく。
弟が十八歳になり車の免許を取った。
僕はバイクの免許も車の免許もそれまでに取得し、オトンの車を乗り回していた。
これからは弟とその車をシェアすることになるんだなと思っていたが違った。
トヨタの新車を買ったのだ。
しかも現金一括で。
ローンも組まずに。
これにはお兄ちゃんビックリしました。
そのお金は幼い頃から貰ったお年玉には手をつけずに貯めていたものだという。
これにもお兄ちゃんビックリしました。
両親の悪いところを全部僕が引き受けて、両親の良いところを弟が全部引き受けたみたいだ。
東京でフラフラとバンドマンをしている兄と、地元でしっかり一軒家まで建てた弟。
恥ずかしい話だが、三十歳を超えるまで親の誕生日すら覚えていなかった。
その日になるとメールがある。
「俺と兄ちゃんからってことにしてプレゼント渡しといたから半分金払えよ」
なんて出来た弟なのだ。
しかし兄弟からのプレゼントですと渡されたものが弟が気を利かせて連名にしていることにも親は気づいているとは思う。
そんな出来ない兄にあぐらをかいていたが流石に近年は何かしらを贈るようにはしている。
親の誕生日すら覚えていない僕が唯一覚えていた誕生日がある。
同じ誕生月だからなのかずっと覚えている。
それは弟の誕生日。
それは今日。
せっかくコラムの更新日が誕生日なのだからこんなコラムもいいのではないかとも思う。
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