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[#70] 何とも言えない 『好きでも嫌いでもない食べ物』
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『好きでも嫌いでもない食べ物』
納豆のストックが残り少なくなるとソワソワしてくる。
酒と納豆とポン酢しか入っていない冷蔵庫に対して申し訳ない気分になる。
もっと冷蔵庫ってのは野菜やお肉を入れてあげないといけないんだろうなと思うし。
もっと身体ってのは野菜やお肉を入れてあげないといけないんだろうなとも思った。
今日は居心地悪そうにベーコンとうどん三玉が居心地悪そうに冷蔵庫に居た。
一人暮らしの冷蔵庫なんてこんなものだった。
大きな冷蔵庫を買った。
しかしそこは奥さんの聖域で僕は冷凍庫で凍っている肉が何の肉かもわかっていない。
たくさんの調味料と野菜室には色とりどりの野菜。
僕が触るのは自動で氷が作られる容器に水を足すくらいのものだ。
あと細かい話で言うとパスタで使うものは触る。
僕はパスタを作ることが趣味なのだ。
米を炊いて、ベーコンしか具のない焼うどんを作った。
洗い物を増やしたくないので丼に米を入れ、その上にポン酢で味付けした焼うどんを乗せた。
そして最後に納豆をかける。
餌のようなご飯が出来上がる。
ただただ腹を満たすためだけのご飯だと惨めに思われるだろう。
しかしこれが美味いのだ。
炭水化物に炭水化物を乗せて食べている時は腹よりも脳が満足する。
外食かこんなご飯か。
男の一人暮らしなんてこんなもんだと思っていたし、それはつまり「好きなものしか食べない」生活をしていたのだ。
きんぴらごぼう、ひじき、ナスのお浸しなどなど。
これらは僕の好きでも嫌いでもない食べ物。
他にもいっぱいある。
一人暮らしの時はこれらを口にすることなんてなかったが今は違う。
食卓には色んな色の、色んな食材が並ぶ。
栄養を考えて、バランスを考えて、奥さんが作ってくれることが多い。
僕がパスタ以外を作ると餌みたいなご飯が出来上がるからだ。
何でも顔に出る僕は好きでも嫌いでもない食べ物を口にしても、好きでも嫌いでもないと顔に書いてあるくらい「そういう顔」をしてしまうらしい。
自覚はない。
ラーメン、カレー、焼肉、パスタ、寿司。
こう並べるとバカみたいなラインナップだが、一人暮らしの時は栄養バランスなど考えずに好きなものの中から今日のご飯は何にしようかと選んでいた。
当たり前だが、嫌いなものをわざわざ食べに行ったり作ったりしない。
そして好きでも嫌いでもないものもわざわざ食べはしなかった。
それでもこんなに大きくなるんだから不思議なものだし。
これからどんな病気や怪我があってもおかしくない食生活だった。
ダイニングテーブルにはいつも花がある。
これも一人暮らしの時との違いだ。
あの頃の僕の生活には花という単語すら生まれてこなかった。
その花を囲むようにおかず、味噌汁、雑穀の入った米。
ありがたい限りである。
でもその日のおかずは僕の好きでも嫌いでもないものだった。
奥さんはそんな僕にこう告げた。
「毎日大好物ばかり食べられると思うな」
名言出ました。
そうか。
あの頃の僕はバカみたいに毎日大好物だけを食べていたのか。
でも花の美しさを結婚してから気づいたように。
あの好きでも嫌いでもなかった食べ物が美味しいと気づけるようになっている日々は続く。
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