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[#287] 何とも言えない『自分の本やのに』
『自分の本やのに』
ギターもキャリーケースも持たずに乗る新幹線。
大体が特大荷物スペース付き座席を予約して乗ることが多い。
ずっと何か忘れ物をしてる気分になってしまう。
折りたたみ傘は持った。
リュックひとつで雨の大阪に向かう。
新大阪駅から大阪駅に向かう。
地元といえど、この梅田周辺は迷路だ。
今では新宿、渋谷の方がスイスイ歩けてしまう。
「すみません、少しお時間ありますか?」
関西弁のイントネーションで急に話しかけられた。
「はい?」
「今ホットペッパービューティーのカットモデル探してて、今月どこかで撮影できる日ありますか?」
「え?僕おっさんですよ?」
「え?おっさんなんですか?」
「え?どう見てもホットペッパービューティーのターゲット層ではないですよ?」
「え?」
「え?」
大阪駅で折りたたみ傘を開いた時にこんなスカウトをされた。
傘で僕の顔がハッキリ見えなかったんだろう。
このモデルのスカウトをされたという自慢話をトークライブの冒頭のつかみで話そうと思ってたのに緊張で飛んだ。
トークライブの内容は緊張とお酒で覚えていないことが多い。
でも質問されて、答えて、新たな発見があってを繰り返したことは覚えている。
自分の本のことなのに。
せっせと書いた文章を違う角度で見ると、違った色や違った匂いがあり、その陰には僕の知らない花や草が咲いていた。
あのセリフはこっちから光を当てると違う表情になるんだとか。
あの登場人物は優しさで嘘をついたんじゃないかとか。
「あの陽のセリフって本当は陽の優しさですよね?馬鹿なふりして天然を装ったあのセリフ」
司会を務めてくれたヤマケンくんがこう質問してくれた。
僕としてはビックリした。
そんな意図がなかったからだ。
「え!そういうふうに捉えました!?」
ヤマケンくんだけでなく、話を聞いてくれているお客さんも大きく頷いていた。
「僕は何も考えずに陽と月の会話劇に身を委ねて書いただけです」
本心だ。
文章とは面白い。
最後にサイン会が行われた。
自分の本にサインをするのは全然慣れない。
CDなら慣れているし、この分厚い本をほんまに僕が書いたんですか?となる。
その際に小声で僕に話しかけてくれた方がいた。
「私、やっちゃんの同級生なんです」
「やっちゃん?」
僕の友達に”やっちゃん”という人がいたかなと脳を回転させる。
少し考えてもやはり思いつかない。
あ、一人いた。
脳の端っこに思い当たる人がいた。
それは友達ではなく僕のオトン(やすゆき)だ。
「オトンですか?」
「はい、素晴らしい本だったんで来ちゃいました」
こんな嬉しいことはない。
なんと父親の同級生が来てくれていたのだ。
ホテルで一泊。
梅田の夜は大雨。
オトンからLINEが来ていた。
同級生の方から感想が来ていたらしい。
その感想は色々と褒めてくれていたのだが、その中にあった言葉に引っかかった。
”こんなに自分に正直な著者に会ってみたかったのでお邪魔しました”
”やっぱり真っ直ぐな人間性を感じました”
いやこれは違うんです。
僕はめちゃ嘘つきやし、ひん曲がっている。
でもそれが一周回って正直で真っ直ぐに見えているだけ。
太陽と月が重なるように今この瞬間たまたまそういう周期なのだ。
少し時間が経てば太陽と月はズレて、また嘘つきでひん曲がった僕が現れる。
自分の本について話すと新しい景色、人、思考に巡り合えた。
自分の本やのに。
自分の本に人見知りしそうだ。
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