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    [#210] 何とも言えない 『FROM 12 TO 4』

    KITSU

    2025/01/13 19:00

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    『FROM 12 TO 4』

     

    本日デビューアルバムの再現ツアーが始まった。

    なんでこんなフレーズにしたんだ?

    なんでこんな歌詞にしたんだ?

    という思いでむず痒くなる。

    でもそれはネガティブなものばかりではない。

    今では絶対に思いつかないようなアイデア。

    ツアーのサブタイトルにもじられているこの曲もそうだ。

    ギターも歌詞も今では考えられないものになっている。

    昔この曲について書いたコラムを読み返してみた。

    かなり昔のことを思い出しながら、少し昔の僕が書いたコラムだ。

    それを今の僕が読んでいる。

    読んだことある人もない人もこの機会に読んでほしい。

    だから今週はここに記す。

     

    ツアーは始まったばかり。

    振り返らない。

    なんて綺麗事やわ。

    たまには振り返って確認しないと。

    過去の自分と今の自分を比べないと。

    勝っているところ、負けているところ。

    さあ勝負だ。

     

     

    深夜

    【名】

    真夜中、夜更け、深更

     

    PM九時、五歳。

    敷き布団はいつの間にか敷かれている。

    窓にはめ込むタイプの古いエアコンが真夏の寝室を十八度に冷やす。

    風呂上がりにその部屋に飛び込む。

    つんと冷えたシーツに包まって、テレビだけが言葉を発する。

    この番組を最後まで見届けたことないなぁと考えるが最後。

    気づいたらもう朝だ。

    明日というものが今日になる、その瞬間。

    その境目を見たかった。

    その境界線には五歳の僕を引きつける力があったが、意識を保ったまま引きつけてくれることはなかった。

     

    金曜か土曜には我が家に近所のおっちゃんおばちゃんが集まり、酒を飲んでいる。

    僕の知りうる限り、そこに酒に強い人はいない為ゆったりとした時間が流れていた。

    「ヒロキまだ起きてるんか?」「ビール飲んでみるか?」「このジュース飲んだら寝えや?」

    全員が少し顔を赤らめ、大人の世界を垣間見た気になっていた。

    嗚呼。

    僕も二十歳を過ぎれば自分の家に友達夫妻を呼んで、簡単なつまみをささっと作る嫁がいて、犬か猫なんかもいたりして、偉そうに自分の子供に「早く寝なさい」とか言うんだろうな。

     

    PM七時、三十三歳。

    なんて。

    当たり障りない夢を描いていた。

    そんな今は当たり障りない夢の一つも実現できずに親不孝を続ける。

     

    AM三時、二十三歳。

    寝静まる町。

    街灯の数も少ない田舎では自販機の明かりが一番の光量を持つ。

    虫たちは本能に抗えずに集まり、その虫と同じように引き寄せられた僕は炭酸とコーヒーを買う。

    静寂の町に自販機が缶を吐き出す音が鳴り響いた。

    ピックも使わず爪も使わず、親指の腹でギターを弾く。

    これが一番小さい音を鳴らす方法。

    小さな音で日本中に自分の音を届ける夢を見ていた。

    そんな当たり障りある夢を当たり障りない夢と共に。

    気づけば、朝が夜を隠していく時間。

    夜と朝のグラデーションの波を泳ぐように走る新聞配達のカブのエンジン音が早く寝なさいと僕を説く。

    部屋の電気を消しても、新しい太陽が夜に滲む光と付けっ放しの通販番組で部屋は明るかった。

    僕が眠り両親が起きる。

    両親と寝ていた睡眠の足りないワカメは寝床を求め仕方なく僕のベッドにやってくる。

    そんなワカメに気を遣い寝返りを打てず目を瞑る。

    あれ?眠気は息を引き取った。

     

    PM九時、五歳。

    疲れを取るためでもなく眠っていた。

    ただ眠りが僕を迎えに来ては毎度簡単に僕を連れ去るだけ。

    それは通称、眠りの悪魔。(何を大袈裟に、ただの睡魔だ)

    僕はそいつに名前をつけ毎日完敗していた。

     

    AM三時、二十三歳。

    あの頃全てに怯えていた僕が、この部屋で、この時間、深い眠りの中にいた。

    そう思うと何かに引っ張られるように口角が上がった。

    無重量の夢の中、可能性しかない次の朝に向かって眠りの悪魔は僕を包んで送り出してくれていたんだ。

    そんなこと考えながら口角を上げながら僕は眠りの悪魔の部屋を自らノックした。

    疲れを取るために。

     

    PM九時、五歳。

    大人たちの緩い宴は続く。

    僕は眠い目を擦りなんとか食らいつく。

    でもここでタイムオーバー。

    寝なさいという言葉を聞こえないふりしながらも手を引かれ寝室へ連行される。

    僕がいなくなった途端、新たな楽しいことや新たな美味しいものが出てきそうだなぁといつも思った。

    僕の部屋にはなぜか日本人形があった。

    それがクソほど怖かった。

    でもあれを除けてくれと言うのも怖かった。

    人形の機嫌を損ねて恨みを買ってしまいそうだったからだ。

    そいつとはどこに居ても目が合う。

    あれはもしかしたら僕を早く寝かしつけるために置いていたのかもと邪推してしまうほどだ。

    目が合うのが怖いから目を瞑る→気づいたら寝てる。

    ってな具合だ。

    朝起きるといつも日本人形の顔は優しかった。

     

    AM三時、二十三歳。

    今僕は大人なんだろうか。

    おそらく法的にはソレなんだろう。

    じゃあいつから大人になった?

    いつから夜を跨げた?

    跨いでもわからないことがある。

    いつから一日は始まりなんだろう?

    大人になってもわからないことはいっぱいあるんだな。

    そんなこと考えながら口をへの字にしながら僕は意味もなく眠れないんだよ。

     

    PM七時、三十三歳。

    今締めの段落を書いている。

    扇風機が緩い部屋の空気を掻き回す。

    この曲はコラムにするには難しかったなぁ。

    なんて思いながら、この締めの段落まで書けたことに満足感もあり少し眠たい。

    猫の鳴き声が聞こえる。

    外にUFOでもおばけでもいるんだろうか。

    この歌詞を書いて十年が経った。

    まだ僕は何もわかっていないし、一日の始まりを知らない。

     

     

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