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[#19] 何とも言えない 『駅から遠い』
『駅から遠い』
東京に来て初めて住んだ部屋。
そこにはかなりの年数住んだ。
バイクを乗っていたため(のちに事故る)駅からの距離はどうでもよかった。
しかも駅から離れた方が家賃は安いらしい。
真横にガソリンスタンドとスーパーがあり住宅地なのにその一帯だけは活気があった。
長く住んだだけあってその部屋、いやその周辺すらも思い出がこびり付いて偶然通りかかっただけでも胸にくるものがある。
良いことも。
悪いことも。
いや、良い風に言いすぎた。
あの頃のことは全てを悪く捉えてしまう傾向にある。
怖いもの見たさ。
そんな感情はなぜ生まれるのか。
怖いのだから見なければいい。
でも見たい。
説明できないし、矛盾している。
それが人間といえば短絡的すぎやしないか。
でもそうとしか言えない。
あの部屋には今どんな人が住んでいるんだろう?
そんな短絡的なことを想うのもまた僕が人間だからか。
しょうもない人間になったもんだ。
しかしまた人間として正常に生きている実感もある。
あの駅から遠い部屋を見に行きたい。
何かのついでで行けるならとうに行っている。
でも今の生活圏内とは離れているため、ついでがない。
わざわざその為だけにいくことになる。
それにはとても勇気がいる。
なんてったって良い思い出よりも悪い思い出が怖いもの見たさという感情を盾に手招きしているから。
前に偶然通った時にチラッと見えた。
あのスーパーのレジが自動精算になっていたこと。
前に偶然通った時にチラッと見えた。
あの駐車場がマンションになっていたこと。
前に偶然通った時にチラッと見えた。
いつも僕のバイクの横に停めていた持ち主の知らない原付がまだあったこと。
前に偶然通った時にチラッと見えた。
その場所に僕の心が怖いという感情だけではなくきちんと懐かしんでいること。
渋谷から一本でその駅には着いてしまう。
何かの拍子にその前に住んでいた部屋を見に行こうとした。
実際は部屋の中を見れるわけではないだろう。
しかしその駅からの道、景色、そして部屋の周辺を見たいのだ。
そしてそこで僕がどんな感情を抱くのか見てみたい。
今に満足していない。
今幸せではない。
だからそんな行動に出ているんだ。
そう言われたり思われたりは絶対にしたくない。
今の僕にも今の僕の周りの人にも失礼だ。
決してそうではない。
ではなぜ見に行きたいのか。
その答えは駅からの長い道のりで見つけ出そう。
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