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    [#193] 何とも言えない 『something elseとばあちゃん』

    KITSU

    2024/09/16 19:00

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    『something elseとばあちゃん』

     

    若い人にはわからないかもしれない。

    something elseというバンドがいたこと。

    三人組で今となっては僕のバンドLEGOと同じ編成だ。

    中学二年生。

    思春期ど真ん中。

    世の中の全て気に食わないお年頃の僕。

    いや、全てってのは言い過ぎた。

    気に食うものもあった。

     

    二世帯住宅で育った僕はじいちゃんとばあちゃんが常にすぐ側にいた。

    じいちゃんは普段から厳格で口数も少ない。

    中学の時、僕の家と学校がとても近いためチャリ通学を禁じられている友達たちが僕の家にチャリを停めるというのがあった。

    もちろん校則違反で先生に見つかったら友達はしばかれる。

    でも我が家としては、まぁアイツらならいいかと黙認していた。

    なんたって物心つく前からの幼なじみたちだ。

    下校の時間。

    じいちゃんは庭の花に水をやっていた。

    僕は玄関にカバンを放り投げ、友達たちは自分のチャリのカゴにカバンを詰め込む。

    「一人百円ずつや!三人やから三百円やな!」

    突然じいちゃんが友達三人に駐輪代を請求し出したのだ。

    もう一度言う。

    じいちゃんは普段から厳格で口数も少ない。

    友達たちは前からじいちゃんとは面識はあるものの確実に戸惑っている。

    実際財布を取り出す友達もいた。

    「ひゃっひゃっひゃっ」

    じいちゃんはそう笑って違う花に水をやりに行った。

    「お前んとこのじいちゃんムズッ!!!!」

    友達たちはそう言って僕に詰め寄る。

    僕はさすがに冗談だと初めからわかっていたが、じいちゃんは自分のキャラを理解してないなと思った。

    家族じゃないと本気か冗談かわからん。

    でもその不器用なじいちゃんが大好きだった。

     

    ばあちゃんはいつもニコニコして冗談も言う。

    毎週一緒に水戸黄門を見る。

    オチは誰もがわかっているのに毎回印籠が出てくるシーンで「ほぇ~!!」と驚いている。

    吉本新喜劇を見ていても何回も見る島木譲二のパチパチパンチに笑っている。

    たまにじいちゃんにご飯の味のダメ出しをされていた。

    「味が濃い」だの「米の硬い」だの。

    昭和の夫婦と言えば簡単だが、そんな言い方せんでもと幼いながらも僕は思っていた。

    じいちゃんの不器用さも理解しているから尚更。

    その度にばあちゃんは「えらい、すんませんなぁ」と謝って、僕の方を見て舌を出していた。

    そんなばあちゃんが大好きだった。

    思春期ど真ん中でもじいちゃんとばあちゃんと話すのは大好きだった。

     

    もうギターを少し触り出していた僕はテレビのある企画に興味を抱いていた。

    電波少年という番組も若い人はわからないかもしれない。

    それを毎週ばあちゃんと観ていた。

    「このsomething elseってバンドは次の曲が売れへんかったら解散せなあかんねんで!」

    ばあちゃんも一緒に観ているんだからそんな偉そうに僕が説明しなくても主旨は理解しているかもしれない。

    「ほぇ~!!えらいこっちゃな!!」

    それなのにばあちゃんは僕に対してもこんな最高のリアクションをしてくれる。

     

    ばあちゃんの茶粥と特製の焼き肉のタレが好きだった。

    この日もたまたま僕はそのどちらもを食べていた。

    楽しみにしていたsomething elseの結果発表の放送のタイミングだ。

    もう食べ終わった肉の皿はそのままに茶粥が入った器と麦茶をダイニングテーブルからばあちゃんがいるリビングに移す。

    リビングのテレビの方がデカいからだ。

    僕は思春期ど真ん中ながらsomething elseを心から応援していた。

    今なら事務所がどこだ、レーベルがどこだ、政治的な側面で音楽業界を見てしまうため心から楽しめない。

    こんな心になってしまうくらい音楽業界の政治に僕はうんざりしている。

    僕だって甘い蜜も吸った。

    でもできないこともあった。

    something elseがどうだったかは知らない。

     

    シングルの「ラストチャンス」がオリコン二位になり解散を免れホッとした。

    ただ何より嬉しかったのは「ラストチャンス」が本当に良い曲だったこと。

    ちなみにこのコラムを書くにあたって改めて聴いてみたけどやはり今聴いても素晴らしい曲。(もっとちなみにこの次のシングル「さよならじゃない」も最高に良い曲なので聴いてみてください)

    僕は茶粥が冷めてしまうくらいテレビにのめり込んでいた。

    いや、楽曲に心奪われていた。

    「ばあちゃん!言うてたバンド解散せんでよくなったわ!曲もめちゃええ曲やなー!」

    僕は興奮が止まらない。

    親も仕事からまだ帰ってこないリビングで共有できるのはばあちゃんだけ。

    演歌が好きなばあちゃんにとって「ラストチャンス」が良い曲と思うのかはわからない。

    でも。

    「ごっついええ曲やな。おばあちゃん最近のけったいな音楽わかれへんけど、この曲はほんまにええなぁ。」

    この時僕はばあちゃんの優しさに本当の意味で気づけた。

    たぶん、たぶんだけど。

    ばあちゃんはこの曲が良いとか悪いとか以前に違う番組を観たかったんだと思う。

    でも僕があまりにも楽しみに熱弁するもんだから仕方なく一緒に観ていた。

    と推測する。

    でも孫の興奮に合わせて「良い曲だ」と言ってくれたばあちゃんを今思うと泣きたくなる。

     

    敬老の日。

    そんなことを思い出した。

    何とも言えんから今日はsomething elseを聴く。

     

     

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