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    [#13] 行間と字余り 『マイアシモト』

    KITSU

    2021/04/01 19:00

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    『マイアシモト』


    アシモト

    【名】

    立ったり歩いたりしている足が地についている所。また、そのあたり。


    答えそのものだったり、すぐに答えが見つかったり、何なら意味のあることなんて書きたくなかった。

    人はわかりやすいものへとすぐに流れる。

    悪いことではないと思う。

    悪いのはそればかりになること。

    人は考えることをやめてしまう。

    想像力のない世界では文化は育たない。


    英語もできない。

    日本語で歌うのも恥ずかしい。

    上の段落で書いたようなことを振りかざし、それを言い訳にしていた。

    初めてのレコーディングの日が迫り来る中、二番のAメロの歌詞だけができていなかった。


    対バンは入れ墨が入ったパンクバンドばかり。

    それに対してボーカルは右端に立ち、前髪が長く、Tシャツというよりカットソーを着てライブをする僕ら。

    今日も狭い楽屋には居場所がなく、五階にあるライブハウスのベランダでタバコをふかしていた。

    対バンのバンドの詞は発音の悪い英語か、恥ずかしくなるような熱い日本語をマイクに託し、スピーカーが拡声した。

    しかし彼らのライブになると、その詞は歌詞となり、隙間の目立つ客席はシンガロングに包まれた。

    僕は初めて歌詞は詞ではないと気づいた。

    おどるポンポコリンとは何かわからなくてもいいのだ。

    ここに誓いを立てよう。

    僕は詞を書くのではなく歌詞を書こう。

    これは深い深い誓いの唄にしよう。


    マイアシモトってなんなんだろうか。

    答えは一つでライブの時、僕たちが足でボタンを押し、音を変える装置群を総称して「アシモト」

    エフェクターのことである。

    スタジオでこれを踏み、大きな音でギターを鳴らした時の感動はなんとなく覚えている。

    爆発音なんて聞いたことないが、それは確実に僕の中での爆発音であった。

    歪んだ爆音は砂嵐のように粒が細かく、何もかも消してくれるかのようだった。

    中途半端なハリボテの世なら尚更すぐにかき消せるだろう。

    僕らの曲は、僕のギターは何かかき消せただろうか。


    リハーサルが終わると本番までの時間は自由だ。

    仮眠する者、楽器屋に行く者、ご飯に行く者、様々。

    シンタロウと大ちゃんはだいたい昼飯代わりにたこ焼きを買いにいく。

    僕はいつもたこ焼きは飯としてカウントできないと。

    あれはおやつみたいなもんだと。

    ほんまにわかってない奴らめ。

    と小言を言う。

    わなかというたこ焼き屋さんは確かに美味い。

    アメリカ村三角公園の横にある有名店より僕は好きだ。

    わなかをテイクアウトし、そのベランダで食べている二人。

    さっきまでヤニ臭かったライブハウスにたこ焼きのソースの香りが充満して気持ち悪い。

    とは思ったものの「一個ちょうだい」と素直に言えるキンタさんを羨ましく思った。

    その時が来るまでそれぞれやればいい。

    僕らはここに戦いに来たのだ。


    2018年、アコースティックアレンジをして再録音しようという話で落ち着いた。

    「バランス」は想像つくが「マイアシモト」はどうだろうか。

    八分の六拍子のリズムにアレンジされた「マイアシモト」は僕を興奮させた。

    よく考えるとリアレンジってのはよくあるけど歌詞をアレンジしたものは少ないなと思った。

    正直書き直したい箇所やまだまだあの頃の僕は甘いな、というような歌詞が少しあるのだが。

    これはこの歪さや間違いをひっくるめて正解なのだ。

    そんなことを人生で初めてレコーディングした曲が「マイアシモト」だったことを思い出しながら想った。


    思いっきりアシモトのスイッチを踏んでボタンが壊れてしまうこともあった。

    優しく踏むよりも大きな音が出そうな気がして。

    「ワープ」のMV参照。

    今日も大きい音を鳴らして大阪、アメリカ村の新神楽というライブハウスで僕らが生きているという証を刻み付けるのだ。

    今日も僕らが一番かっこいい。

    そんな根拠のない自信だけを握りしめて。


    全員でお金を出し合う。

    一人数万円は出しただろうか。

    もちろんマネージャーもスタッフもいない。

    すべて自分たちで工場やプリント会社を手配し、大量のCD-Rを購入して、そこにデータを焼き付ける。

    初めて自分のCDを手にした喜びは今も覚えている。

    会場で初めてこれを買ってくれた人も僕は覚えている。

    先輩のバンドマンだ。

    その歌詞カードにサインも書かされた。


    小学生の頃オトンとその友達家族とバスでスキーに行った。

    座席はバスの最後部。

    今では大丈夫だが、その頃はまだ三半規管が弱く山道と慣れないバスの臭いから小学生の僕は嘔吐した。

    バスの数路は後ろから前に傾斜があるのをご存知だろうか?

    不幸なことにその傾斜を利用し、たまたま最後尾に座っていた僕の口から出た吐瀉物はバスの通路を流れていった。

    大惨事だ。

    オトンはかなり焦っただろう。

    僕は吐いたことにより気持ち悪さから少し落ち着きを取り戻し冷静になった目でその流れていく物を眺めた。

    バスは悪魔のような揺れから小気味良い揺れへと変わったような気がした。


    「マイアシモト」の僕の中での二番のAメロの漂うような揺れるような雰囲気はまさにあのバスの吐く前の景色に似ていた。

    それを文脈とは関係なくぶち込んだ。

    僕の中で革命的な作詞法だった。(世間的にはそんな大したものではない)

    僕の中でのおどるポンポコリンだった。

    ”車酔いしそう”

    感情論ではなくできた曲に溶けるように書けた歌詞なのかもしれない。

    その部分の音楽をよく聴いてみてほしい。

    本当に車酔いさせる自信がある。



    『マイアシモト』


    何もない 形もない

    深い深い 誓いの唄


    形を維持した 今の世も

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    古いシールド伝い

    歪めマイアシモト

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    車酔いしそう

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    歪めマイアシモト

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    かき消して かき消して

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