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[#11] 行間と字余り 『Ray』
『Ray』
Ray
【名】
光線、一筋の光
初めてラブソングを書いた。
ラブソングの書き方がわからなかったけど、うまくできたと思う。
天王寺はお互いの町から電車に乗りちょうど真ん中に位置する。
映画館、ショッピング、飲食店、ラブホテルetc。
天王寺にはデートに必要なこれらが詰まっている。
しかも高校生にとって優しいお値段でだ。
東京でいうところの池袋みたいな感じだろうか。
この後大学生となり行動範囲を難波、心斎橋へと移すのだが、この頃は天王寺ですべて事足りていた。
路上ミュージシャンが今日も歌い、ホームレスが段ボールを集める。
毎回僕は御堂筋線へと吸い込まれる彼女が見えなくなるまで手を振っては近鉄南大阪線へと一人歩いた。
今はその懐かしい経路は迷子になるほど工事によって様変わりしている。
もう今は僕がいつも手を振っていた場所はない。
僕の高校は男子校である。
そんな僕も高校三年生になり受験モードだ。
成績は中の上くらい。
僕の感じを成績までもが反映してくれている。
危機感はあるものの行動に移せない典型的なダメ人間の僕は塾というか予備校みたいな所に入ることにより、その危機感を和らげていた。
ここでは僕と同じ高校の人は少ないが、中学は同じで高校は別の友人が何人かいたため孤立することはなかった。
が、別にその数人と話す以外は基本的に孤立しているに等しかった。
教室とは別に自習室という部屋があり、授業以外の時間はそこで勉強してるフリをしていた。
途中からさすがの僕にも受験のスイッチが入り、高校には行かず午前中からその自習室で勉強する日が増えていった。
人のまばらな知り合いもいない午前の自習室。
その中に一人小麦色の肌のショートカットの女性がいた。
制服でどこの高校かわかった。
先生が彼女に用事があったのか彼女の名前を呼んだ。
平凡すぎる名字で僕と同じ名字だった。
少し笑った。
名曲の予感がした。
キンタの実家でギターの音が大きいとお爺ちゃんに怒られた甲斐があった。
冷静に聴くとその曲はとても歪で構成は一番(ワンコーラス)しかなかった。
普通の歌は一番、二番、間奏、ラストサビ。。。みたいな定型文のようなものがあることが多い。
LEGOの初期の曲はこの定型文から外れる曲が多々ある。
しかしながら一番だけ、つまりワンコーラスだけでこんなに素晴らしく且つこれ以上はもう何もいらないと思える曲は今の所「Ray」以外ではない。
八分の六拍子の中を美しいメディが走る。
すぐに書くべきことは決まった。
これは絶対にラブソングにしよう。
甘くはなく、切なくも光が見えるような。
塾の数少ない友達のネットワークを駆使し、彼女と話せる間柄になった。
受験どころではない。
第一志望の大学に落ちたのもきっとそのせいだ。
しかしそのせいなら後悔はない。
時は僕らが付き合う前の年末。
初詣に行く約束にこぎつけた。
大晦日は電車は二十四時間動くと知り驚いた。
駅で深夜の一時に待ち合わせの約束をした。
さずがに一緒に年を越すにはまだ早い気がしたが故の時間だ。
家で過ごす大晦日。
目に入る紅白は頭には入らず、ひたすら時を待つ。
コタツでそばを食べた。
次の瞬間目を開けると深夜二時だった。
ノストラダムスよ、地球を滅亡させてくれ。
と思った。
小手先の言葉はメロディに振り落とされるばかり。
歪で美しい曲は浅はかな思いを蹴散らす。
真正面から体当たりする他なかった。
一行目、僕は宣誓から入ることにした。
「すべて意味があなたになるように歌にしよう」
これはやはり僕なりの宣誓だ。
そして僕の弱さや狡さをすべて詰め込んだ。
そうすればこの曲は許してくれる気がして。
あんな形相で正月から自転車を漕ぐ人はいないんじゃないか。
しかしそれが僕である。
携帯には数件のメールと着信履歴。
もう家に帰ってるであろうが、そう思う時にはもう自転車にまたがっていた。
いくら正月とはいえ、深夜二時過ぎには人は少ない。
そんな中焦り狂った顔で正月から汗だくの僕と、暖房の効いた待合室で一人、爆笑しながら僕を見ていた彼女は浮きに浮いていた。
待合室の暖房は僕の汗を加速させた。
「ごめん、爆睡してました」
汗だくの僕と、それを笑って許してくれる彼女。
これが僕らの初デート。
今も横にいるんだと真剣に信じて疑わなかったあの頃からどのくらい時を重ね、どのくらい成長できただろうか。
もうLEGOは聴いていないんだろうな。
結婚して子供ができたと聞く。
心から嬉しく思う。
そう思えるなんて想像もしてなかったが、それが僕なりの成長なんだろうか。
みんな大人はこういう類の思い出を心に仕舞い込んで生活しているのだろうか。
尊敬に値する。
誰もが皆、傷を隠して生きている。
それは辛い、痛いだけではない。
心に刻み込まれるほどの思い出の傷だ。
良い思い出も、悪い思い出も。
「Ray」という曲は僕らから放たれ、もう誰のものでもない。
逆に誰のものでもある。
僕のものでもある。
あなたのものでもある。
すべての人が誰かと初めてを経験するように、たまたま代表して僕の初めてを詰め込んだラブソング。
愛なんて何もわかっていない小僧が懸命に逃げずに書いた愛の歌。
すべての意味があなたに
なるように歌にしよう
この感触も、 このコードも、
この甘味も、 色も、 匂いも
五感ではあなたのすべては
理解できない 表わせない
僕のありったけで そう、ありったけで
都合のいいように受け取る
時々あなたは冷たく
そんな時決まって世界はキレイで
僕ばっかりがその優しさを
飲みほしてしまったような
過去を引きずる僕は
未来しか見ないあなたを卑怯な手で鎖に繋いでは
あなたの自由を奪ってるかな?
弱い僕はあなたのいない世界を生きる
自信はないの だからせめて先に死なせて
強いあなたは言うでしょう
「 そんな事言うんじゃないの」
つまり、あなたは僕の生きる光