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    [#10] 行間と字余り 『所詮、僕は言葉を覚えたばかりの猿』

    KITSU

    2021/03/11 19:00

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    『猿』

    【名】

    通俗的な意味ではサル目(霊長目)のうち、ヒト(古人類を含む)を除いたもののことである。ただし、生物学的観点から見ればヒトもまた「サル」の一種に他ならない


    タイトルが決まった。

    会心のタイトルだと思った。

    皮肉にも自虐にもなり得ると思った。


    「若い奴は小さくまとまるな」

    なんて聞き飽きたフレーズを言われても何も響かない。

    若い時は、自分はまとまっていると思いながら実はまとまっていないものなのだから。

    まとめているつもりだ。

    そのくせ嘘くらい平気でつけるようになって。

    そのくせ人間としての器はお猪口くらい小さいのであった。

    これは全身の血を総入れ替えするくらいじゃないとと思いながらも、どこか受動的で。

    自分から汚れた血を入れ替えるわけでもなく、誰かに吸い出してもらおうとすら考えていた。

    なんて受け身だ。

    そのくせ口だけは達者になっていく。

    しかし上っ面のまとも風な言葉に説得力はない。

    そのくせ歌詞なんて書きたいなどとほざく。

    蟻を踏みにじって殺した無垢な若さよりも痛い、二十歳前後特有の若さが僕を蝕んでいた。


    本当はうすうす気づいていた。

    羽曳野は、大阪は、日本は、世界はもっともっと広いこと。

    本当はうすうす気づいていた。

    僕は僕の知りうる誰よりも心が狭いこと。

    どちらも僕が受け止めるべき現実なのは理解できるが、一人で受け止めきれるだろうか。

    不安しかない。

    でも若さ特有の謎の自信が思考を止めた。

    行き着く先は「四人なら何とかなるんちゃう?」


    「ふわふわ」「ゆらゆら」

    こんな日本語にしかない擬音語、擬態語。

    好きだ。

    でもあの頃の僕らは本当は。

    「ふらふら」「だらだら」

    だったかもしれない。

    とにかくまずは飛んでしまえばいい。

    それは風任せのようでいて、実は風頼みだったのかもしれない。


    すべての色には名前があるのだろうか。

    あの通学路のドブの色も、向こうに見える二上山が滲む色も、近鉄電車の駅員の冬物のコートの色も。

    今鏡の前立つとそこに映るのは暖色でも寒色でもない、はっきりしない色だ。

    名前をつけよう。

    「タナカヒロキ」

    その中途半端な色にはこんな名前が似合うさ。

    このタナカヒロキ色を世界に撒き散らしてやる。

    しかし撒き散らすには世界は広く、インクが圧倒的に足りないこともまだわかっていない。

    いや、ほんとはわかっているが気づかないふりをしていた。


    大学を出た。

    学校は卒業を行き先とし、そこに向かう。

    時の流れは早いね、なんて言い合いながら気づけば卒業式を迎える。

    何がめでたいのかもわからずにおめでとうを浴びる。


    社会に出た。

    どこを行き先と見据え走り出すのか。

    結婚?金持ち?幸せ?成功?定年?死?

    なんでもいいよ。お前が決めろ。

    急に冷たい態度で社会に言い放たれる。


    みんな行き先は決まった?


    あの頃よりは少しは明確になった行き先。

    しかしこれを言語化しろと言われると困る。

    確実に言えることはゆっくりと死に近づいていること。

    でもそれは自分で決めた行き先ではない。

    じゃあ行き先を幸せとする。

    でも今が幸せじゃないかと問われれば申し訳ない気持ちになる。

    不幸せではないから。

    今僕は幸せなのかどうかも自分ではわからない。

    何が幸せなんだろうか。

    猿並みの脳で考える。

    衣食住がある程度揃い、家族や恋人や友達、なんならペットもいて、目立った病気もなく、借金は今の所ない。

    これは幸せですか?不幸せですか?

    あなたはわかりますか?

    僕にはまだわかりません。

    僕はまだあの「タナカヒロキ色」のままなのかもしれません。


    今でもそうなのだが。

    人を小馬鹿にしていた。

    世の中アホばっかりやと。

    自分にも期待していなかった。

    僕もアホばっかりの中の一人だと。

    でも羽曳野にも、大阪にも、日本にもたまに賢い人がいると今ならわかる。

    世界にはもっといるんだろう。

    あれから年をとった分それなりのアホも見てきたし、まだまだ僕もアホだ。

    だから僕の尊敬するあの人やこの人やを抜いた全員まだまだ言いたい。


    所詮、僕(お前)は言葉を覚えたばかりの猿だと。



    『所詮、僕は言葉を覚えたばかりの猿』


    まとまってなんかいないよ

    平気で嘘もつきます

    小さい僕を噛んで

    汚れた血を吸って


    まともな事言ったって

    説得力は乏しく

    蟻サイズの僕は何を説けばいいの?


    僕が生きてく世界は広くて

    僕の創った心は狭くて

    全てに意味を求めるのなら片方の僕は死んだ方がいい

    残るの4 つの塊


    飛べるならどこへでも ふわふわ ゆらゆら

    まだ行き先も決まんないよ


    はっきりしないその色は今の僕を溶かしたよう

    その色で世界を手にできると思っていた


    僕が生きてく世界は広くて

    僕が創った心は狭くて

    全てに意味を求めることで片方の僕は生かされている

    残るのは4 つの塊


    所詮、僕は言葉を覚えたばかりの猿

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