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    [#7] 行間と字余り 『FROM 12 TO 4』

    KITSU

    2021/02/18 19:00

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    FROM 12 TO 4



    深夜

    【名】

    真夜中、夜更け、深更


    PM九時、五歳。

    敷き布団はいつの間にか敷かれている。

    窓にはめ込むタイプの古いエアコンが真夏の寝室を十八度に冷やす。

    風呂上がりにその部屋に飛び込む。

    つんと冷えたシーツに包まって、テレビだけが言葉を発する。

    この番組を最後まで見届けたことないなぁと考えるが最後。

    気づいたらもう朝だ。

    明日というものが今日になる、その瞬間。

    その境目を見たかった。

    その境界線には五歳の僕を引きつける力があったが、意識を保ったまま引きつけてくれることはなかった。


    金曜か土曜には我が家に近所のおっちゃんおばちゃんが集まり、酒を飲んでいる。

    僕の知りうる限り、そこに酒に強い人はいない為ゆったりとした時間が流れていた。

    「ヒロキまだ起きてるんか?」「ビール飲んでみるか?」「このジュース飲んだら寝えや?」

    全員が少し顔を赤らめ、大人の世界を垣間見た気になっていた。

    嗚呼。

    僕も二十歳を過ぎれば自分の家に友達夫妻を呼んで、簡単なつまみをささっと作る嫁がいて、犬か猫なんかもいたりして、偉そうに自分の子供に「早く寝なさい」とか言うんだろうな。


    PM七時、三十三歳。

    なんて。

    当たり障りない夢を描いていた。

    そんな今は当たり障りない夢の一つも実現できずに親不孝を続ける。


    AM三時、二十三歳。

    寝静まる町。

    街灯の数も少ない田舎では自販機の明かりが一番の光量を持つ。

    虫たちは本能に抗えずに集まり、その虫と同じように引き寄せられた僕は炭酸とコーヒーを買う。

    静寂の町に自販機が缶を吐き出す音が鳴り響いた。

    ピックも使わず爪も使わず、親指の腹でギターを弾く。

    これが一番小さい音を鳴らす方法。

    小さな音で日本中に自分の音を届ける夢を見ていた。

    そんな当たり障りある夢を当たり障りない夢と共に。

    気づけば、朝が夜を隠していく時間。

    夜と朝のグラデーションの波を泳ぐように走る新聞配達のカブのエンジン音が早く寝なさいと僕を説く。

    部屋の電気を消しても、新しい太陽が夜に滲む光と付けっ放しの通販番組で部屋は明るかった。

    僕が眠り両親が起きる。

    両親と寝ていた睡眠の足りないワカメは寝床を求め仕方なく僕のベッドにやってくる。

    そんなワカメに気を遣い寝返りを打てず目を瞑る。

    あれ?眠気は息を引き取った。


    PM九時、五歳。

    疲れを取るためでもなく眠っていた。

    ただ眠りが僕を迎えに来ては毎度簡単に僕を連れ去るだけ。

    それは通称、眠りの悪魔。(何を大袈裟に、ただの睡魔だ)

    僕はそいつに名前をつけ毎日完敗していた。


    AM三時、二十三歳。

    あの頃全てに怯えていた僕が、この部屋で、この時間、深い眠りの中にいた。

    そう思うと何かに引っ張られるように口角が上がった。

    無重量の夢の中、可能性しかない次の朝に向かって眠りの悪魔は僕を包んで送り出してくれていたんだ。

    そんなこと考えながら口角を上げながら僕は眠りの悪魔の部屋を自らノックした。

    疲れを取るために。


    PM九時、五歳。

    大人たちの緩い宴は続く。

    僕は眠い目を擦りなんとか食らいつく。

    でもここでタイムオーバー。

    寝なさいという言葉を聞こえないふりしながらも手を引かれ寝室へ連行される。

    僕がいなくなった途端、新たな楽しいことや新たな美味しいものが出てきそうだなぁといつも思った。

    僕の部屋にはなぜか日本人形があった。

    それがクソほど怖かった。

    でもあれを除けてくれと言うのも怖かった。

    人形の機嫌を損ねて恨みを買ってしまいそうだったからだ。

    そいつとはどこに居ても目が合う。

    あれはもしかしたら僕を早く寝かしつけるために置いていたのかもと邪推してしまうほどだ。

    目が合うのが怖いから目を瞑る→気づいたら寝てる。

    ってな具合だ。

    朝起きるといつも日本人形の顔は優しかった。


    AM三時、二十三歳。

    今僕は大人なんだろうか。

    おそらく法的にはソレなんだろう。

    じゃあいつから大人になった?

    いつから夜を跨げた?

    跨いでもわからないことがある。

    いつから一日は始まりなんだろう?

    大人になってもわからないことはいっぱいあるんだな。

    そんなこと考えながら口をへの字にしながら僕は意味もなく眠れないんだよ。


    PM七時、三十三歳。

    今締めの段落を書いている。

    扇風機が緩い部屋の空気を掻き回す。

    この曲はコラムにするには難しかったなぁ。

    なんて思いながら、この締めの段落まで書けたことに満足感もあり少し眠たい。

    猫の鳴き声が聞こえる。

    外にUFOでもおばけでもいるんだろうか。

    この歌詞を書いて十年が経った。

    まだ僕は何もわかっていないし、一日の始まりを知らない。




    『FROM 12 TO 4』


    PM9時5歳 僕は未知の世界へ

    明日が今日になる一瞬を見てみたいだけ


    瞼の裏には映像 夢ん中で声はビブラート

    歩いてる地面はぐにゃり あれ?気づいたらもう朝だ


    AM3時23歳 僕は自分の部屋で

    だんだん朝が夜を隠していくのを見てる


    目に入る通販のCM 耳につくカブのエンジン音

    もう朝だっていうのに あれ?眠気は息を引き取った


    無重力の夜を泳ぎ回って僕は

    新しい朝に向かっていた きっと

    僕の中のあれもこれも全部

    あの頃は夜が吸い込んでくれてた


    大人は僕を寝かしつけては楽しいことを

    起きていようと我慢していても眠りの悪魔が


    いつから大人になり夜を跨げたんだろう

    いつから1日は始まりなんだろう

    Down Down Down

    意味もなく眠れないんだよ


    無重力の夜を泳ぎ回って僕は

    新しい朝に向かっていた きっと

    僕の中のあれもこれも全部

    あの頃は夜が吸い込んでくれてた


    始まりも終わりも 闇も光も

    UFOもおばけも 現実も夢も

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