ハートをおくったユーザー
ハートをおくったユーザーはいません
[#4] 行間と字余り 『テキーラグッバイ』
『テキーラグッバイ』
テキーラ
【名】
リュウゼツランの茎をしぼった液を発酵させ、蒸留してつくった無色透明の酒
メキシコ産で、酒精度は四十度くらい
自転車さえあればどこにでも行けると思っていた小学生。
田舎から都会へと表情を変える電車の窓を知った中学生。
羽曳野市以外に住む友達ができた高校生。
大阪府以外に住む友達ができた大学生。
初めてお酒を覚えた大学生。
初めて心斎橋でゲロを吐いた大学生。
初めて社会に出ようとする大学生。
初めてお別れの乾杯をした大学生。
すべて僕だ。
流されるのが得意な僕はみんながやってる就職サイトに登録だけはした。
その日以来あのページを見ることはなかった。
バイトかライブかスタジオ練習か、という毎日が続く。
友達は模擬面接や説明会などで忙しいらしい。
しかし彼らはそんな僕を普通の友達として接してくれた。
みんなの就職活動がうまくいけばいいと心から思った。
バイトやライブやスタジオ練習は僕にとっての就職活動だと自分に言い聞かせた。
大学から実家に帰る際、乗り換えのため天王寺を必ず経由する。
南大阪の者には天王寺はどこへ行くにも通るべき大都会である。
僕が初めてデートしたのも天王寺だ。
寄り道するのにはちょうどいい街。
買い物、買い食い、お茶。
そこでも一人の友達が就職活動をしている。
大学の友達の中でも唯一の僕側の人間。
つまり就職はせず音楽を仕事にしようとする友達だ。
そんな彼がメンバーと路上ライブをしている。
僕は他のお客さんと同じ目線で見るのも小っ恥ずかしいので歩道橋の上から彼らを見下ろす形でよくライブを見ていた。
彼とは大学が同じで仲良くなり、たまたまお互い音楽をしていることに仲良くなってから気づく。
そんな彼と後に同じ年にデビューし、同じレーベルになり、何より親友になるだなんて。
その時は仲の良い友達の一人でしかなかったのに。
物心ついてから何回も季節が僕の前を通り過ぎた。
四つの季節をぐるぐると。
僕には四つには感じない季節というものは四つに区切られている。
その中で春は特別なものと教えられ、それに慣れ、それに飽きた頃。
突如、春は悲しいと知ることになる。
さよならが僕の後ろ髪を引いて、僕らが履き違えた自由を奪っていく。
あぁ僕らはもう子供じゃないんだと。
卒業式当日。
僕と尼川は自分が卒業できているのかわからずに、一応スーツを着て大学へ向かった。
理由は取得単位がギリギリだったのと、単位が取得できているか即ち卒業資格があるかを貼り出されている張り紙を当日まで見ていなかったからだ。
つまり試験以降はまったく学校に行っていなかったのである。
掲示板を見つけ僕らは安堵の目を合わせ、結び方の怪しい似合わないネクタイを結び直し卒業式の行われている体育館に遅刻しながらも向かった。
その日の夜は終電を超えてみんなと飲み明かした。
二十二歳にもなるとさすがに誰も吐かなかった。
大手企業、消防士、警察官、バンドマン、専門学校、ショップ店員。
大阪、香川、東京、金沢、沖縄、三重、神戸。
それぞれの人生が始まる。
彼らにはこれから僕の知らない友達もできるんだろう。
僕に何かできないかな。
僕は歌詞が書ける。
いくらアホなあいつらでも理解できるように書こう。
歌詞では東京とひとくくりに書いているが社会に飛び出した友が知らない土地で道に迷わないように。
それは東京だけの話じゃない。
僕らの音が東京(未開の地)までいくように。
僕らは僕らで未開のメロウとグルーヴの旅へ。
天王寺で路上ライブをしていた彼らは東京でラジオ番組を持ったらしい。
彼が選曲してLEGOで初めて東京に響かせてくれた曲は『テキーラグッバイ』
『テキーラグッバイ』
グッバイな匂いの風が
僕の髪を引く
四季に飽きた頃
春は悲しいと知る
グッバイな自分をどう
表わせばいいのかと
届くように掻き鳴らすだけ
メロウとグルーブの旅
12345678
秒速で動くこの球体では
目隠しをして 手を縛って
もっと もっと
自由は奪われていくのでしょう
グッバイなこの音は
どこまでいくのだろう?
東京までいくように
メロウとグルーブの旅へ
12345678
秒速で動くこの球体では
目隠しをして 手を縛って
もっと もっと
自由は奪われていくのでしょう
バイバイの色を塗って今を忘れよう
バイバイのテキーラで今を忘れよう
バイバイの色を塗って今を忘れよう
バイバイのテキーラで今を忘れよう