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[#3] 何とも言えない 『キャンプファイアーの煙』
『キャンプファイアーの煙』
中学の林間学校では男女二人ずつのグループに分けられた。
アイスクリーム作り体験をしたり、カレーを作ったり。
好きな子と同じグループになるなんて、そんな上手い話はない。
学校指定のダサいジャージを男子は何とかして格好良く、女子は何とかして可愛く着崩す。
それがまたダサさを倍増させていることにも気付けない。
僕が好きな子は同じクラスではあったから違うグループでも近いテーブルでカレーの支度をしている。
何かで爆笑しているそのグループ。
心なしか男女の距離が近いように感じるそのグループ。
僕は今にもニンジンではなく自分の指を切ってしまいそうなほど全神経をそのグループに使っていた。
夜がやってきて集中せずに作った割には美味しいカレーを食べキャンプファイアーの時間だ。
普段見ることのない火力は全ての学生を高揚させた。
ノンアルコールであそこまでハイになれるあの時期しか発揮出来ない、乱暴に言うなら「ちん毛の生えた子供の馬力」というものを見た。
僕は目で好きな子を追っていた。
森の美味い酸素を餌に煙という排泄物を出しながら、火はみるみる大きくなった。
山の風は変わりやすい。
僕はずっと見ていたからわかったことがある。
さっきからキャンプファイアーの煙がずっと好きな子の方へ流れている。
その子は咳き込みながらも友達との話に夢中で煙のことは気に留めていない。
咳き込んでることも無意識なんだろうなというくらい話が盛り上がっている。
もちろんその話の輪には同じグループの男子もいる。
炎越しにその光景を眺めては僕の目のピントは炎と好きな子を行ったり来たりしていた。
やっと煙に襲い続けられていることに気付いたのか、一行は煙のない安全なエリアへ移動した。
このキャンプファイアーという催しの目的は何なんだろうか。
火とあの子を眺めるという以外の内容があったのかどうかも僕は覚えていない。
風は色んな方角から火に美味しい酸素を送り届けている。
あの子に目をやる。
場所を変えたのにまた煙にやられている。
移動してもキャンプファイアーの煙はまた彼女の方へ行くのだ。
また咳き込むあの子。
何度でもキャンプファイアーの煙に絡まれ、咳き込む。
それでも楽しそうに話している彼女を見て僕は少しその子を嫌いになった。
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