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[#2] 何とも言えない 『お前のうんこは浮くか?』
『お前のうんこは浮くか?』
LEGO BIG MORLの前に組んでいたバンドがある。
その時にしか関わらなかった仲間もたくさんいて、ほとんどの人が今何をしてるかも知らない。
22歳くらいの頃だろうか、その中の一人から突然深夜のファミレスに誘われた。
もう前身バンドは解散し、LEGOが始まっていた。
「今日○○くんに急にファミレスに呼ばれてねんな」
その日はLEGOの練習が夜まであり、そのままファミレスに向かうつもりでいた僕は休憩中にメンバーに世間話の延長でそう言った。
「へ~よろしく言うといて」
くらいの返事がメンバーからあったように思う。
練習が終わりファミレスに向かおうとするとキンタが何故か一緒に行くと言う。
「ちょうど腹減ってるし、俺もファミレス行くわ。」
彼は嘘をついた。
キンタとファミレスに入ると〇〇くんは店に先に入っており、ここだここだと手を振る。
世間話を始める彼の口調はいつもより明るい。
僕も久々に会う事もあり調子を合わせ話す。
無理やり調子を合わせたことと深夜のせいで自分のキャラを見失いそうになっていた。
そろそろ今日は何の用なん?と僕が聞こうとした時、彼もそろそろだと思ったのかアイドリングトークを終えた。
「単刀直入に聞くけど、お前のうんこは浮くか?」
そんな人生で初めてで、学校では習わない問いに僕は外国語で話しかけられたような錯覚を起こした。
「ど、どうやったかな?意識して見たことないし。。。」
そう答える僕に彼は被せた。
「健康なうんこは浮くねんで。何なら今から俺このファミレスのトイレで見せようか?」
その瞬間テーブルの下で何かが膝に当たった。
何回もコツコツと。
自分の膝を見ると、ずっと黙って横に座っていたキンタが自分の膝で僕の膝を小突いていた。
その膝は〇〇くんからは死角になっており、キンタは真っ直ぐ前だけを見ていた。
〇〇くんは何故自分のうんこが浮くのかの説明に入っていた。
まぁ簡単に言うと、彼はある浄水器を使っていて、それのおかげで体の調子が良く是非ヒロキにも使って欲しいと。
いやもっと簡単に言うと、マルチ商法の勧誘だ。
でも僕は正直そんな話は全く頭に入ってこなかった。
キンタが何故一緒にファミレスに来て、何故この話になった時に膝を小突いたのか。
その意味がその時ハッキリとわかったからだ。
キンタからの気遣いに対しての驚きの中、キンタのその膝が〇〇くんにバレないように僕も一生懸命、前だけを見た。
後でわかったことだが、キンタも前の週にその勧誘を受けていたらしい。
それをわかっていながら、もしかしたら〇〇くんは普通にヒロキとご飯をしたいだけかもしれない。
とか考えたんだろう。
ファミレスに行くなとは言えずに付いてきて、気を付けろと合図するキンタはやっぱりなんて不器用な男だろうと思う。
〇〇くんは紙を出して何やらグラフや数字を書き込んでいる。
慣れた手つきだ。
キンタにもこの紙を見せたのだろうか。
そう考えるととても腹が立ってきた僕は、まだグラフを書き終えていない〇〇くんに別れを告げた。
「俺のうんこが浮くか浮かんか知らんがな。どうでもええねん。お前は一生浮いたうんこを嬉しそうに眺めとけ」
そう言ってキンタ行こうぜとファミレスを出た。
キンタが何とも言えない顔をしていたことを覚えている。
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