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[#142] 何とも言えない 『御神輿という文化』
『御神輿という文化』
御神輿。
おみこし。
絶対に漢字では書けない。
大阪ではそういうお祭りではだんじりだ。
みこしとだんじりの違いは沢山あるのだろうが、素人の僕から見てもわかる点。
それは担ぐか、曳くかだ。
前に住んでいた家では近所付き合いみたいなものがあった。
近所というかよく行く飲み屋の店主や常連と仲良くしてもらっていた。
東京でもそんな関係ができて嬉しかった。
町内の神輿があるから参加してくれと言われ、レジャー感覚で足袋やサラシを買った。
地獄の始まりだとは知らずに。
午前中には法被が支給され何だかテンションが上がった。
町内の参加者は基本おじさんばかりで、僕ら飲み屋の常連で結成された集団はこんな年齢でも若手に入る。
人数合わせとしても期待されているし、若さという意味でも期待されていた。
近所の大学から留学生たちも参加している。
そういう繋がりも何だか素敵で、東京ではないかのようだった。
彼らの目には日本の独特な風習はどう映るのだろうか。
昼から法被を着て飲むビールはとんでもなく美味い。
ガソリンは満タン。
神輿が倉庫から顔を出す。
太陽に照らされ金色に光る神輿は想像以上に神々しかった。
東京の空は快晴。
すでに飲んだビールは汗になっていた。
神輿を担いだことはありますか?
僕は舐めていた。
肩が爆発するほど痛いのだ。
上下に揺らしながら進むもんだから、その度に丸太で肩を打撲しているのと変わらない。
気がつくと留学生たちはあまりの痛みからか居なくなっていた。
「おいおい、ただの思い出作りで一瞬だけ担いで帰ったのか」
今となってはそういう予定だったのかもしれないが、その時は自分の肩の激痛と人数が揃っていないため担ぐのを代わってもらえない辛さで心からムカついた。
「根性なしの留学生め」
僕らのグループは留学生たちへの怒りだけで一つになっていた。
定期的に休憩がある。
肩の感覚はもはやない。
それでいて空は雲ひとつなく、無駄に神輿日和だった。
おかげで休憩の度に飲むビールが無駄に美味い。
休憩の終わりを知らせる笛が鳴る。
あれから僕らは笛の音がトラウマになった。
神輿は全員で肩に担ぎ進んでいくもの。
なので人よりは身長が高い僕は皆んなの身長に合わせるとずっと腰をかがめて肩に担ぐことになる。
これが辛い。
肩が人より一番高いところにあるもんだから一番衝撃を喰らう。
かといってずっと中腰も腰が爆発する。
一定のリズムで鳴らされる笛と皆んなの掛け声でトランス状態。
神輿を担いで進む道はいつも通る道なのに違う景色に見えた。
近所の柴犬も法被を着ていて可愛い。
予定があったのか途中からの参加者も居て少し助かる。
近所の女子中学生か高校生が何人か神輿に入ってきた。
彼女らは法被姿も様になっていて慣れた様子だ。
地元で育った子供たちなんだなぁ。
こんな行事に参加するなんて素敵な女の子だなぁ。
疲れ果てながらも彼女たちを眺めた。
彼女たちは身長が低くても神輿を担げるように肩にティッシュケースを二つ重ねたような専用の道具を乗せている。
身長というか肩の高さのかさ増しだ。
ベテランだ。
それを見ていると何だかクッション性がありそうで肩が連続爆発状態の僕らはその道具が羨ましくて仕方がなかった。
肩が痛い、腰が痛い、辛い、帰りたい。
こんなネガティブな感情に支配されていた僕に声がかかる。
「お兄さんのとこ下がっているよ!!!」
女子に突然怒られた。
そんな声と同時に僕が担いでいる丸太の部分を「バンバン!!」と叩く彼女たち。
めちゃくちゃ怖い。
そして恥ずかしい。
東京のチャキチャキ娘たちに煽られた。
もう肩はくれてやる。
気付けばネガティブな感情は消えていた。
意地だけで動いていた。
夜の闇を纏い艶かしく金色に光る神輿も神々しさがあった。
クライマックスは感動的で女子に怒られた気持ちも忘れていた。
でもクライマックスに相応しいく神輿はその日一番の暴れ方をする。
「あーもう明日は動けない」
確信した。
今でも飲み屋であの日の話をする。
痛みと、笛へのトラウマと、女子に怒られたこと。
そんな翌年コロナで祭りが延期になった。
皆んな残念がりながら嬉しそうだったり。
何とも言えない顔していたな。
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