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[#1] 行間と字余り 『dim』
dim【自動】
薄暗くなる、かすむ、曇る
親と縁を切ろうが、悪魔に魂を売ろうが、誰かを蹴落とそうが、etc。
僕らは上に行くんだ。
そんな明確な目標はなかった。
目標を設定する以前の問題。
つまり何も考えていなかった。
僕個人としては。
あとの三人もそうだった気もする。
音を鳴らすこと、ライブをすること、それらをたまに褒めてもらえたりする。
モチベーションなんて必要なかった。
長瀬駅を降りる。
金髪だったあいつが黒髪に。
耳がピアスだらけだったあの娘の耳にはそれらがない。
キャンパスまでの道は誰が四回生か一目でわかるようになっていたが、僕はその中でも例外。
真新しくも安っぽいリクルートスーツの波をすり抜ける。
明確な目標を持った彼らは少し前まで同じ目をしていたのに、一人一人が社会に出ることへの不安を纏って太陽のように輝いている。
その間を浮遊しながら進む僕は雲のようだ。
彼らの目には僕はぼんやりと見えたことだろう。
何も聞こえないように安いヘッドホンで蓋をしてキャンパスへ向かう。
the strokesの『12:51』が流れていた。
いつか社会のことを理解して、いつか結婚して、いつか子供ができて。
裕福ではないが嫁を守り、子供に何を聞かれてもスマートに答える。
そんな大人に黙っていてもいつかなれると思っていた。
スタジオ練習は火曜と木曜。
練習と休憩の時間は同じくらい。
でもそこでの雑談が僕らには必要だった。
わざわざ高い金を出して馬鹿話をした。
スタジオにあるデカビタを飲みながら新聞広告の裏をまとめたメモ帳に「dim」の歌詞を書いた。
いつだって僕の歌詞は自分に言い聞かせるように書いてしまう。
僕自身のために書いているとは何て自己中心的なんだろうと自分でもいつも思う。
しかしそれらは自分への戒めの意味を常に孕んでいる。
つまり。
歌詞の内容にあるようなことをできていない。
が、できるようになりたい。
そんな歌詞が誰かの生きる上でのプラスの力になっていることはたぶん僕の人生の喜びランキングのトップ五には入ると思う。
でもこの大阪のスタジオに入っている頃は上記の通り、何も考えてなかった。
自分の、LEGOのこと以外は。
薄暗く、かすんで、曇っていた。
でも。
頑張って、一生懸命に、自分自身を目を凝らして見た。
何が見える?
希望しか見えない。
気がした。
根拠のない自信だけはあった。
何かがはっきりした。
いくつもあった点が初めて繋がった気がした。
そして輪郭ができ、色がついた。
これが僕ら。これが僕。
誰かに発見されたいと願うばかりの僕は初めて自ら光を放つことができた。
それが「dim」
僕らの初めてのCDで再生ボタンを押すと、一番初めに流れる音楽と言葉。
大阪の田舎の景色が乱反射して輝きだした。
誰だったかな?みっちゃんだったかな?
思い出せないけど、誰かが言ってた。
太陽と地球の距離はものすごいことは誰もが知ってる。
でも太陽が放った光が地球に届くまでに八分かかるらしいと。
あれから目標はその時々形を変え産まれた。
そして達成してもしなくても、また次の目標が産まれた。
いや、それは目標に向かっている途中からすでに次の目標がぼんやり見えているのだ。
目に届いた光は八分前の光で、その頃にはまた新しい光を放って。
希望と欲求、終わることはないのだろう。
死ぬまで。
今は根拠のある自信だけがある。
『dim』
太陽は眩しすぎて輪郭は見えず
目を細めて見た その光はぼんやり
太陽は理想で実像は僕の現実
ぼんやりした太陽は僕の心とイコールです
誰もが目指すものを太陽と例えるなら
僕の甘さが雲となり 視界を遮るのです
目を凝らして見て
何が見える?
希望しか見えない
乱反射した光が全て調和して
はっきりとしたイメージを僕の目に映してくれる
乱反射した光が全て調和して
僕とそのイメージを1つにしてくれる
無数の点は線となり きれいな円を描き
鮮やかに色がつき 繊細に瞬き
遠くて 輝き過ぎなくらいの方がいい
また追いついてはまた
乱反射した光が全て調和して
はっきりとしたイメージを僕の目に映してくれる
乱反射した光が全て調和して
僕とそのイメージを1つにしてくれる
目に届いた光は8分前の光で
その頃にはまた新しい光を放って
僕らの希望もこうして終わることはないのだろう
永久に光る太陽は僕らの希望なんだろう