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[#28] 何とも言えない 『病院食』
『病院食』
大事故だった。
今思えば生きてたのが奇跡、ましてやギターをまだ弾けているなんてもっと奇跡。
知らない人もいるかもしれないので簡単に説明すると。
僕は数年前バイクに乗っている時に事故に遭い、ICUに入るほどの大怪我をしました。
入院二ヶ月とリハビリに一年。
よく気絶したのかと聞かれるが、それがずっと意識はあった。
だから余計に辛かった。
僕を轢いてしまったおばちゃんの叫び狂う奇声が聞こえる。
気が動転したのだろう。
何たって僕は大きな交差点の真ん中で動かない。
死んだと思ったのだろう。
正確には全身が痛すぎて動けなかった。
色んな人が僕を助けてくれた。
しかし僕がずっと考えていたのは「明日のライブどうしようかな」「痛み止めの強い注射をお願いしてみよう」
こんなことを思っていた。
救急車よりも先にシンタローが同じ道をバイクで通り、僕に近づいてくる。
「すまん、明日のライブどうしよかね?」
と僕が言うと。
「そんなん今はええから!どこか痛いか?」
と言った。
僕は「全身」と答えて全力のつよがりで少し笑って見せた。
シンタローは現場に残り事故の処理や貴重品の管理などをしてくれたらしい。
感謝しかない。
そこへ救急車がやってきた。
こんなにも安心するのかというほど安心した。
救急隊の人が僕の右腕を確認して「こりゃダメだ」と言った。
こんなにも絶望するのかというほど絶望した。
僕は「心で言え!」と心で突っ込んだ。
正月のセールで買ったアウターとパンツで事故ったもんだから救急車の救命隊に服は切らないでくれとお願いした。(この時すでに事故で服はズタボロだったらしいのに)
しかし搬送先の病院に着くと有無を言わさず切られた。
僕の馬鹿みたいなお願いを聞いてくれた救命隊の人は良い人なんだと思う。
思ったことがすぐ口から出ちゃうあたりも。
そして僕を守ってくれた新しいお気に入りの服たちにも感謝なんだろう。
もし事故が夏ならもっと酷い怪我だったに違いない。
多数の箇所を怪我したが、一番酷かったのが右手首だ。
無意識に右から来た車を右手で押さえようとしたらしい。
右手一本で車を抑え込めるわけなんてないのに。
初めの数日はICUにて点滴のみだったが、途中で病院食が出てきた。
病院食といえば不味いというイメージかもしれないが美味しいのである。
久々の食事だったからかもしれないが僕は一人泣きながら食べた。
毎回毎回スプーンとフォークが用意されている。
用意されているもんだから当たり前のようにそれらを使い食べる。
しかし途中で、右手を怪我して箸は使えないだろうからスプーンとフォークなのか!と気づいた。
「あの、僕左利きなのでスプーン大丈夫ですよ?」
そう看護師さんに言うと次の日からお箸に変わった。
お見舞いにはたくさんの方が来てくれた。
本当に力になる。
数々の差し入れみたいな物も嬉しかった。
安静にすることしかできない僕にとってDVDや本など有難かった。
そしてSNSというものの有り難みを感じれる日々でもあった。
LEGOを待ってくれている人たちの声、友人の声、僕抜きでライブを頑張ってくれている様子。
それらを眺めるのが日課だった。
時間はここには存在しないのかもしれないと思ったところに毎日三食の病院食が今の大体の時間を僕に知らせる。
今の病院食は本当に美味しい。
とは言ったものの、ジャンクな物も食べたくなる。
少しは歩けるようになり施設内なら自由に動いて良くなった僕は病院内のコンビニで普段は食べないお菓子を買った。
味の濃いものを久々に食べて顎が痛かった。
部屋に戻るとマネージャーの鈴木からLINEがあった。
「今日の晩飯用意するから待っといて」
美味い弁当でも買ってきてくれるのか、僕は看護師さんに今日の晩の病院食は結構ですと伝えた。
夜の七時過ぎ。
普段はもっと早く夕食を食べている僕は空腹の限界を超えていたし、毎日の楽しみの病院食をキャンセルしたのに待たされていることに少しイラついていた。
日に日に携帯への連絡は少なくなり携帯が鳴らないことに寂しさも覚え出していた。
LINEが来た。
苛立ちと嬉しさが半分ずつ。
「駐車場に来て」
え、持ってきてもくれないの?
こんな怪我人が自分で取りに行くのか?
と苛立ちが少し勝った。
駐車場は夜にもなると車自体が少なく、すぐに鈴木の居場所がわかった。
事務所が所有するハイエースを借りて来たのだろう。
シンタローともう一人スタッフの徳田が居た。
車の後ろ側のトランクが開いている。
そこからなぜか湯気が出ていた。
近づいていくうちに強烈だが、懐かしい匂いがする。
そこにはラーメン二郎のテイクアウト版、いわゆる「鍋二郎」があった。
僕は最高の仲間を持っているのだ。
ラーメン二郎を知らない人はググって欲しいが、鍋二郎の説明は必要だろう。
大きめの空の鍋を持っていくとテイクアウト用にその鍋にラーメンを入れてくれるシステムがある店舗がある。
僕らの大好きな目黒店はそのサービスがある。
LEGOBIGMORLはラーメン二郎に目がない。
ジロリアンと呼ばれる人種だ。
病院食に飽きたであろう僕を思いやり彼らは二郎を病院まで僕に届けてくれたのだ。
あの日の二郎の味は忘れもしない。
馬鹿みたいかもしれないが本当に泣きそうになった。
僕が少し食べ始めると彼らも同じ鍋を箸でつつく。
「お前らも食うんかい」
と心で突っ込んだが、そんな野暮な言葉は今日は口から出すまい。
食べ終わり、彼らに別れを告げ、僕は病室へと歩く。
退屈な毎日の中とびきり素敵な時間を過ごさせてもらった。
あんなに口の周りが油まみれの患者もいないだろう。
そして同じ部屋の患者さんに謝らなければならない。
信じられないくらいのニンニク臭というか、二郎臭を僕はこれから部屋に持ち込みます。
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